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Re: 彼女の前世はシンデレラ【イラストあり】 ( No.111 )
日時: 2013/08/28 18:51
名前: 冬の雫 (ID: ViM8jUbu)

■八話■王子の禁忌


「あなたが…俺の前世…?」

『そうだよ。初めましてだね、紅葉くん』

紅葉は優しく笑った。
白く色素の薄い髪が、揺れる。


木ノ葉がそれに少し見とれてしまっていると、ふと、横でつまらなさそうに見ていた小雨がぱちぱちと手を叩いた。

はっと気が付いて、木ノ葉が小雨を見る。

『感動の再開〜っと言いたいところだが…

紅葉、お前が犯した禁忌、忘れてないだろうなぁ?』

小雨が眼光を強くして、紅葉にそう言った。

「……禁忌…?」

木ノ葉が、意味がわからず言葉を繰り返す。
横にいる紅葉は頷いて、『嫌なこと覚えてるね』と困ったように笑った。

『……忘れてないよ、小雨。僕の中でまだ生きてる』
『……あぁそうか。だったらいいや。
おい雨』
「………ナニ」
『行くぞ』

さらりと小雨は言うと、そのまま小雨は消えていく。

雨は木ノ葉と紅葉を見て「感動の再開の邪魔はしたくないからね」と冷たい声で言って、保健室を後にした。



『───………』

小雨は姿を消した後に必ず来る空間で、座り込んで腕を組んで考えていた。

その空間は真っ黒で、辺り一面が恐怖を誘う闇。

だが小雨はずっとここに居るため、もう慣れてしまっていた。

『……紅葉…やっと逢えたな……』

目を瞑って、呟く。

あの日のことは絶対忘れない。

小雨は少し息を吐いて、『とりあえず、良かった』と一人で納得して一人で頷いた。


───……紅葉、やめろ紅葉……っ…!!


自分の声が頭から離れない。
哀しく笑った紅葉を助けられなくて、どうしようもなくて、ただただ声を発せずに呆然とするだけだった。


『……ふ、あの時のオレ…馬鹿みてぇだったな……』


必死になって叫んでいた自分が懐かしい。

小雨は目を細めて、暗闇を見つめていた。


■◆■


その頃───屋上では。

腰まである長い髪の毛がふわりと揺れ、その少女───巳鞠 和歌は、「木ノ葉くん…」と呟いた。

『あの子…紅葉に会ったのね』
「うん」
『どうするの?紅葉の禁忌のことがあの子に知れたら、後々面倒なことになるわよ。わたし面倒事嫌いなの』
「さすがわたしの前世…ね。性格似てるかも」
『あらそう?』
「毒舌なところは違うけどね」

和歌はいつものようには笑ったりせずに、哀しそうに目を伏せた。
風がまた、和歌の髪をさらっていく。

「……ねぇ歌和」
『ナニ?』
「王子様のこと…好き?」

和歌が尋ねると、頭の中の声───つまり前世のシンデレラの歌和うたわは、少し間を開けて声を発した。


『好きよ。大好き。優しいところも、お人好しなところも、泣き虫なとことも』


歌和は、愛しそうに言っていた。
そして、『あの人は禁忌を犯したけど』と続ける。


『それでも、愛してる』


歌和の言葉に、和歌は目を細めた。

「そう」と零して空を見上げる。


「わたしは木ノ葉くんを……今の王子を、愛せるのかな…」


■◆■


保健室。

───という名の、前世交流。

「えと…紅葉さんって呼んだらいいのかな」
『紅葉でいいよ』
「……じゃあ、紅葉」
『なんでしょう?』

目の前にいる人が自分の前世だとは、木ノ葉は未だに信じられなかった。

まだわからないことがたくさんある。


前世の人に会えるの?

紅葉の犯した禁忌って?

暗闇で会った紅葉はなんであんなに哀しそうだったの?


訊けない。
これから当分は、訊く勇気すら自分にはなさそうだ。

「えっとまず質問…」
『うん』
「紅葉は…本当に、シンデレラの王子様なの…?」

やっと訊けた質問は、答えが分かっているものだった。
少しの後悔と、でもそう言うと 本当にそうなのか、という疑問がふつふつと湧いてくる。

『うん。僕は、シンデレラの王子、紅葉だよ。君の前世』

紅葉は表情を変えずに、優しくそう言った。
木ノ葉は予想通りの答えに、少しホッとする。

『木ノ葉くん』

そんな木ノ葉に、紅葉は名前を呼んだ。
え、と木ノ葉が顔を上げる。

『シンデレラには、会ったかい?』

紅葉は少し、哀しそうな表情をしていた。優しさの中に哀しさが隠れているような。

保健室に入ってきた風が、ふわ、と紅葉の白い髪をなびかせた。

木ノ葉は顔を伏せて、「…会ったよ。前世のシンデレラは知らないけどね」と少しだけ笑った。

『……そう』
「紅葉はさ…シンデレラのこと好き?」
『もちろん』

即答する紅葉に、木ノ葉は安堵した。
『まだ君には教えられないけど…僕が禁忌を犯しときも』と紅葉は言葉を続ける。


『彼女は、笑ってたんだ。禁忌を犯した僕に。
そんな彼女の笑顔も好きだし、全部が好きだ。愛してる』


紅葉は、愛しそうに言っていた。
紅葉の言葉に木ノ葉は「はは」と笑う。

『君はどうなの?今世のシンデレラは好き?』

その言葉に、木ノ葉は顔を上げた。
前に居た紅葉と、視線がぶつかる。


「もちろん。」


笑う木ノ葉に紅葉は、「良かった」と優しく微笑んだ。



前世と今世が出逢うとき。


いつか今世は、前世の全てを知らなければならない…───