コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 彼女の前世はシンデレラ【イラストあり】 ( No.121 )
- 日時: 2013/08/31 23:53
- 名前: 冬の雫 (ID: rE1CEdls)
■九話■白雪姫の訪問
雪のような白い肌。
もう開かない紅い唇。
『やめ……、やめろよ…!!』
森の中。
ただただ響く掠れた声。
冷たくなった人。
決意した目で笑う人。
それを止めようとする人。
───全てが、あの日を境に狂っていった。
『やめろ紅葉ぃ……っ!!!!』
『……はっ、』
目が覚めて、小雨は重たそうに起き上がった。
さっきまで“夢”としてでてきた過去の出来事が、まだ頭の中に残ってじんじんと痛む。
『……っはぁ…』
らしくない。
なぜ今日に限って、こんなものを思い出さなくちゃならないんだ。
小雨は無造作に前髪を掻き上げて、ココから出してもらうため『おい』と声を発した。
「……………」
無反応。
それに反して聞こえてくるのは、規則のいい……寝息。
『雨め…あいつ寝てやがるな』
小雨はひとつ息をついて、無断で雨の前に姿を出した。
ぼんっ、という出てくる際になる音が、小雨にとってはイライラする。
『……ホントに寝てるよコイツ…』
見れば、目の前にはあどけない寝息をたてて寝ている雨。
ここは特別応接室だとわかり、周りに人が居ないことに安心した小雨は、雨をいじることにした。
『………』
つん、と頬をつつく。
雨は眉間にしわを寄せるが、すぐにまた深い眠りに入る。
それが幼い子供みたいで、『黙ってれば可愛いのに』と小雨は少し落胆した。
『………』
今度は艶のいい髪の毛を引っ張ってみる。
………微動だにしない。
『………こいつってこちょこちょ効くのかな』
ちょっとしたS心が芽生え始め、小雨が楽しそうに雨の腹部に手を伸ばした瞬間。
───目を瞑ったままの雨に、がしっ、と腕を掴まれた。
『………エ』
「……………いい度胸してるんだね、小雨」
『………はっ…ははは…』
雨の低く掠れた声と、後悔の色を見せた小雨の声。
次に特別応接室から聞こえてきたのは、声にならない声だった。
■◆■
───その後、同じく特別応接室。
二人がいがみ合っていると、唐突に、がちゃ、と音を立てて、特別応接室の扉が開いた。
え、と二人は同時に扉の方へと顔を向ける。
そこには───きょとんと立つ、郁原 雪が居た。
まだ雪の前世が白雪姫と知らない雨は、不機嫌そうに無言で雪を見る。
勝手に入ってこられたのが嫌だったのだろうか。
それに反して直感で雪の前世が白雪姫だと分かった小雨は、『白雪姫か、ここ座れ』と机越しに椅子を指差した。
「はっ…、白雪姫?」
『おう。見た感じな。だろ?白雪姫』
雪は表情を変えないまま、コクリと頷いた。
雨は呆気にとられて、ただただ雪を見つめる。
「…あなたは…王子様、ですね…。ちょっと聞きたいことが……Zz」
『Σ 寝たぞこいつ』
「………やっかいな人が来たね…」
雨は、深いため息をついたのだった。
■◆■
『それで、聞きたいことってのは?』
小雨がマグカップを手に、雪と向き合う。
雨は、横で腕を組んで宙を見つめていた。
「ひとつ…お聞きしたいこと、が…」
雪は独特の口調で、ゆっくりとそう紡いだ。
小雨は『できる限りは答えるぞ』と得意げに言う。
雪は眠たそうにしたまま、「あの…」と声を発した。
「あなたのように…、前世の人はこちらに来れるんですよね…?」
『ああ。シンデレラや白雪姫みたいな王の位に関わるヤツ限定だけどな』
「…ですよね…。
でも、わたし…、」
『……?』
「前世の白雪姫さんに、会ったことないんです…」
ゆっくりと、いつものように穏やかな口調で雪はそう言った。
雨は表情を変えず。
小雨は───目を、見開いた。
『……そ、れ…』
「紅葉の所為だね」
『…!!おい雨…っ』
「もみ、じ…?」
「もう全て言ってあげなよ、なんで白雪姫は小雨みたいにココに来られないのか。僕帰るから」
『おい、雨!』
雨は引きとめようとする小雨を無視して、特別応接室を出て行った。
小雨は───先ほどの余裕を持った顔とは真反対に、焦った色を見せている。
二人だけの特別応接室に、沈黙が漂った。
「………あの」
口を開いたのは、雪だった。
「…なんで私の前世がここに来られないのか…教えて…ください」
『…………』
雪の真っ直ぐな瞳に、小雨は固まった。
目を伏せて、腕を組む。
そして───はぁ、と息をついた。
『……わかったよ。前世で起こったこと、全て話してやる』