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Re: 彼女の前世はシンデレラ【イラストあり】 ( No.139 )
日時: 2013/09/07 14:02
名前: 冬の雫 (ID: JxRurJ5z)

■十一話■前世の記憶〈2〉


突然起きた変化。


「……うぅ…、くそっ…」


森の中では、小雨の声にならない声が絶えることは無かった。
普段の余裕ある顔に、涙はとめどなく流れていく。


目の前で冷たくなった愛しい人。

その人の肌は、冷たく降っている雪のようで。


もうその紅い唇から言葉が発せられないと思うと、小雨は、もう何も考えたくないというようにひたすら雪見の名前を呼んでいた。


「………っ…、……」


涙はいつか枯れる。
小雨も例外ではなく、自然と、涙はすっと消えて行った。


───そんな頃ふいに、ザ、と後ろから草を踏む足音が聞こえて、小雨はゆっくり振り向いた。


───そこには。


「………もみ…じ……?」

雪見の死体に焦点を合わせた、紅葉が居た。


「紅葉っ…!なんでここに…」
「………小雨」
「……へっ…、」


小雨は一瞬反応が遅れて、小雨の横にしゃがむ紅葉を目で追う。
紅葉は目の前の、雪見の死体を見つめて、目を細めた。

「紅葉……?」

紅葉は、目の前の現実を素直に受け止めているようだった。

“雪見は死んでしまった”

その言葉を頭の中で反芻して、理解している。
でも───どこか、思ったような寂しさはみられなかった。

「紅葉…雪見が……、……」

小雨は掠れた声でそう言い、涙の枯れ果てた目で紅葉を見る。

紅葉はこくんと頷いて、「……ん」とおぼろげに返事をした。

「───……ねぇ、小雨」

紅葉が口を開く。
その目は、もう目の前の死体すら写っていなかった。


「確か、禁忌を犯した王子は死刑にされるんだっけ」


………え、


小雨が、目を見開いて声を零した。


「………、えっ…、お前なに言って…」

「……やっといつもの小雨の口調に戻ったね」


にこ、と紅葉が笑う。
その微笑みは───もう全てを、決意した笑顔だった。


「待て、紅葉やめろ…」


紅葉の気持ちを汲み取った、小雨の声が震える。
横に居る紅葉の前に手を伸ばすが、それはあっけなく戻された。


「やめろ…変な気をおこすな紅葉…、お前は雪見のためにも生きてなければ……!!」


紅葉は、薄く笑ってゆっくりと口を開いた。




「僕はもう死んじゃうけど。

僕らが生まれ変わったら……


また、逢おう」




「………っ…!!」


紅葉の出された言葉に、小雨は首を振る。
やめろ、そんなこと言わないでくれ、と。

だが紅葉はもう小雨が何を言っても振り返らずに───雪見の額に、手を当てた。


「やめ…、紅葉っ…!!!!」


───『小雨、知ってるかい?』

小雨は幼い頃、大好きだった叔母に色々な話を聞かせてもらっていた。
小雨は毎日のそれがとても楽しみで、誰よりもお婆ちゃんっ子だった。

『なぁに?おばあちゃん』
『まだ小さい小雨と同じ年のシンデレラに仕える王子様にはね、特別な能力があるんだよ』
『どんなの?』
『その能力はね、王子様が死体の額に手を当てたら、その人を生き返らせることが出来るんだ』
『へぇーすごい!』
『でもね、』
『………?』


「……っ、もみ…じ……」



『───その王子様はね。


人を生き返らせた罰として───代わりに父親である国王の手によって、死刑にされちゃうんだ』



「やめてくれぇえぇぇえええぇぇえっ!!!!」



小雨が叫んだ、刹那。

とてつもない程の強い発光と共に、草木が揺れ、地雷が起こった。


「……っ…、ウソだろ……っ?」


眩しさで閉じてしまった目をそろりと開け、景色を写しこむ。


「……、もみ、じ…」


紅葉の姿はない。

一瞬状況を把握するのに遅れたが、視界にあったのは、ゆっくりと目をに光を入れた白雪姫の姿だけだった。

「…!!白雪姫…っ」

地雷により距離を置いていたため、急いで白雪姫の元へ駆け寄る。

頬に淡い赤みの差した白雪姫はまだ慣れない目で、「…王子…様?」と掠れた声で零した。

「…良かった、生き返ったんだな…!」
「生き…返った…?」
「そうだ!紅葉が白雪姫を生き返らせて……、」

ハッ、と目を見開いて、白雪姫を抱きかかえたまま小雨は手を止めた。

白雪姫が「…どうしたんですか?」と小雨を見る。


「紅葉……紅葉が………、」

「紅葉さん?がどうし…、」

「ちょっとここに居てくれ!」


小雨は白雪姫を離し、いなくなった紅葉を見つけ出すため森を出ようと立ち上がった。

状況がわからない雪見は「あっ待って…!」と言葉を零す。

だがそれは夜の森の中へと消え、小雨の姿は見えなくなっていた……───







『……これでわかっただろ?』

小雨が掠れた声でそう言って、息をついた。
それは、重い、重い息。

小雨と雪だけの特別応接室には、風は流れていなかった。
風が吹いているのは、外だけ。

「…じゃ、じゃあ……」
『ああ、そうだ』

恐る恐る発した雪の言葉に、小雨は閉じていた目を開けて、窓の外へと視線を投げた。

木々が、さわさわと優しく揺れる。


森の中。

ただただ響く掠れた声。

冷たくなった人。

決意した目で笑う人。

それを止めようとする人。


───全てが、あの日を境に狂っていった。




『紅葉は雪見を助ける為に、禁忌を犯して……───死んだ』