コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 彼女の前世はシンデレラ【イラストあり】 ( No.160 )
- 日時: 2013/10/05 14:16
- 名前: 冬の雫 (ID: mznU1Olg)
『紅葉は雪見を助ける為に、禁忌を犯して……───死んだ』
小雨は窓の外へと視線を投げたまま、風の音を聴きながら、
そう言った。
小雨の髪が、音を感じさせずに静かに靡く。
───特別応接室の外側の扉に寄りかかって中の様子を聞いていた雨は、はぁ、と息をついて、その場を立ち去って行った…───
■十二話■「愛せないわけがない」
「……そう、だったんですか…」
───特別応接室では、雪が、小雨から前世の話を聞いてそう零した。
伏せた目が、少し揺らぐ。
『…ま、最終的に、雪見以外は逢えたんだ。結果オーライってヤツだろ』
「…そう、ですね。
……ぁ、結局…雪見さんがこっちに来られないのは…なんでだったんですか?」
『それは……』
小雨は息をついて、目を逸らした。
現実を受け止めたくないような、そんな感じで重々しく口を開く。
『……雪見なりの、償いなんだよ…。あいつは頑固なところがあるからな。自分の所為で紅葉が死んだって言って、ずっと自分を責めてた』
小雨がそう言って、『ま、雪見に逢えなくてもさ。いいんだよ、オレは』と少しだけ笑った。
「…なんで…ですか?」
『オレらは幸せを望みすぎた。紅葉が死んでから、紅葉の分だけ生きなきゃと、必死に繋ぎ合わせて生きてきた。
…でもさ、結局みんな死ぬんだ。紅葉は父親に死刑にされた、ってことは分かってるよな?オレは、それが許せないから生きれる分だけ生きてきたんだ』
小雨は ふぅ、と息を吐いて、『……理不尽だよな…』と目を伏せて呟いた。
『白雪姫の想いに応えるのが…王子として、夫としてのオレの役目だしな』
小雨がそう言って、苦く笑う。
雪は「……はい」とだけ言って、頷いた。
『…まぁ、お前はあまり気にするなってことだ。
そんなことより、今の王子と早くいい関係になってくれ』
その小雨の言葉に、雪は「ぁ…」と思い出したように言葉を零した。
今の王子=淵菜 雨
そんな文字が、雪の頭にぐるぐると回る。
「今の王子って…雨くん、ですよね…?」
『ああ』
「雨くんって……彼女さんとか、いるんですか」
『いると思うか?自由人のアイツに。』
「あはは…そうですよね」
小雨はそう言うが、ふいに、『あ』と言葉を零した。
雪は「え?」と小雨を見る。
『いや…一度だけいたな…』
小雨が記憶を辿りながら、そう呟く。
『確か二年前の、中学三年の時だったか』
そう言って…小雨は、『あれ?』と首を傾げた。
考えるように腕を組んで、また首を傾げる。
「どう…したんですか?」
『いや……、』
小雨は納得いかないように、無理矢理目をつむって、次に真っ直ぐに雪を見た。
『雨の昔の彼女も…前世が白雪姫だったような気がする』
■◆■
一方、放課後になったため誰もいなくなった教室では。
───紅葉が、木ノ葉に前世の真実を告げていた。
『……分かったかい?』
少し心配したように、紅葉がそう言う。
木ノ葉は顔を伏せたまま頷いた。
『あまりにも君が前世の話を聞きたいというから、教えてあげたけど。
……やっぱり、信じきれないかな?』
紅葉は少し笑って、『まぁ無理に信じなくてもいいんだけどね』と座っている椅子の背もたれに身を預けた。
時計の針の動く音だけが、明かりのついていない教室に響く。
「……なぁ」
『…うん?』
ふいに木ノ葉が発した言葉に、紅葉は伏せていた顔を上げた。
相変わらず柔らかい表情をしている紅葉に、木ノ葉は言う。
「紅葉は、後悔はしてないの?」
木ノ葉は、真っ直ぐに、紅葉にそう言った。
え、と紅葉の視界が揺らぐ。
『…後悔?なんで。そんなのはしないよ』
「……そう。ならいいや」
『………ぁ、でも』
紅葉は『後悔…ひとつだけあった』と苦く笑った。
木ノ葉は目を細めて、「うん」と紅葉を見る。
『結局…白雪姫を助けられなかったことかな』
前世で命を紡いだ。
でもそこからは、白雪姫は“責任感”という重荷を背負わなければいけない訳で。
結局今世でも白雪姫は姿を現せなかったから、もう助けられていないのと同然だ。
……それが、紅葉の考えだった。
木ノ葉は ぎり、と歯ぎしりをして、机を思い切り叩いて立ち上がって言った。
「違う!!!」
…木ノ葉のその声に、紅葉はびくっと反応した。
そして、『木ノ葉くん…?』と木ノ葉の見る。
「…違う…。なんでみんな、罪を全て自分で抱えようとするんだよ…!」
木ノ葉の声が震える。
頭の中にあるのは、白雪姫の死じゃない。
小雨でもないし、みんなの言う“罪”でもない。
───いま目の前で、紅葉が涙を流しているということ。
木ノ葉は───そんな紅葉に、焦点を合わせた。
「誰も罪なんて……持ってないじゃないか……」
よく考えてよ。
ずっと前から、“罪”なんてものはなかっただろ。
ただ必死に生きて、生きて。
その過程で誰が死のうと誰が助けようと、それも“生きる”過程だろ。
それは罪にならないし、責任感も持たなくていいことじゃないか。
ただただ、必死に生きただけなんだろ。
───木ノ葉は、そう言って、「だから紅葉は泣くなよ…」とそのまま椅子に座った。
時計の針の音なんて、聞こえない。
木ノ葉に聞こえるのは、紅葉から落ちる雫の音だけだった。
『………っ…、』
自分は父に殺された。
白雪姫を助けるために、“禁忌”を使ったがために。
でも───それがどうした?
『…君はホント……面白いことを言うね……』
父親に殺されようが、自分で死のうが、結局はアレは白雪姫の命を紡いだ訳だ。
罪なんて、どこにもなかった。
『……木ノ葉くん』
「………なに」
『……僕、どうかしてたね。本来の目的を忘れてしまっていた』
雫の音は止んだ。
あとは───紅葉の言葉だけ。
『木ノ葉くん。君は、今のシンデレラを愛せるかい?』
いつか聞いた言葉だった。
紅葉が暗闇でひとりぼっちだったとき。
暗闇から出るときに、頭に響いた、あの声。
木ノ葉は───顔を上げた。
「愛せないわけがない」
ほらね、シンデレラ。
僕よりも───この子は、凄い王子様になるよ。
紅葉は、『僕も負けないよ』と涙の枯れた顔に笑みを浮かべた。