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Re: 彼女の前世はシンデレラ【イラストあり】 ( No.41 )
日時: 2013/08/19 21:11
名前: 冬の雫 (ID: fQORg6cj)

■四話■サディスト王子、淵菜 雨


中学卒業といえば、青春の入口。
青春の入口といえば、中学の卒業式後の告白。

───その告白は、淵菜 雨にとっては何の意味も示さなかった。


「淵菜先輩!第二ボタンくださいっ」

「雨くん、ずっと好きだったの」

「先輩、最後にメアド教えてください!」


卒業式が終わった後は、次々と雨に襲いかかる告白、告白。

そんな告白の嵐を聞きながら、雨は真顔でしれっと呟いた。



「犬がナニ騒いでんの?」



■◆■


この学校には、“シンデレラカップル”というものが存在する。

言い換えれば“美男美女カップル”で、ひとりは巳鞠 和歌、そしてひとりは淵菜 雨。

その噂は今になってはほんとんど全校生徒が知っており、二人のうちのどちらかを見るたびについ意識してしまうらしい。

まぁ、翻弄癖のある淵菜 雨の姿はほんとんどの生徒があまり見る機会がないのだが。


…そんな噂が流れる、この学校。


だが二人はお互い───喋ったこともなかった。


そして噂はだんだんと姿を変えていき、ハードなものになって行く。

最終的には───


「淵菜さんって、巳鞠ちゃんのこと狙ってるらしいよ」


■◆■


「ふざけるな」


───特別応接室。

その一角で、サディストで有名な淵菜 雨は、コーヒーの入ったマグカップを机に叩きつけた。

ガン、という鈍い音が、特別応接室に小さく響く。

「いやでも雨くん、結構噂になってるらしいよ、コレ」

眼鏡をかけた優しそうな面持ちの教師、乃木 徹(のぎ とおる)は、なだめるように雨に言った。

雨は、「それは単なる噂じゃない」とイライラを表した顔で乃木を睨みつける。


翻弄癖のある雨だが、いつも授業を休んでは、ここ、特別応接室に来ているのだ。

それはいつも特別応接室に居る乃木に会いたいからなのか、ただ単に授業をサボりたいだけなのか。

本人が何を考えているのかはわからないが、とりあえず乃木は雨が来ることに嬉しさを感じているようだった。


「先生に言われてもなぁ…」

困ったように乃木が笑う。
雨はマグカップを持って、中のコーヒーを混ぜる様にくるくると器用にマグカップを回した。

「僕、噂のたぐいは嫌いなんだ。しかも一度も面識のない女子生徒を、僕が狙ってるって?ありえない」
「雨くん、彼女作らなさそうだもんね」
「よくわかってるんだね」

口調に強みはないものの、雨には明らかに怒りのオーラが漂っていた。

また怒り紛れに叩きつけたマグカップが、鈍い音を立てる。

「教師だからプライベートにはあんまり言えないけど、噂はあまり気にしないほうがいいと思うよ」
「僕もそう努力はしてるよ。だけど…、」

雨が顔を歪める。

それは───特殊な日常の不快を表していた。


「僕の前世は───白雪姫の、王子様とやらだからさ」


そう。

淵菜 雨の前世は───白雪姫の、王子様だった。


「僕は前世なんて興味ないけどね」