コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 彼女の前世はシンデレラ【イラストあり】 ( No.56 )
日時: 2013/08/22 20:12
名前: 冬の雫 (ID: kgjUD18D)

■五話■白雪姫はよく寝る子


うららかな春の中。

ある教室の放課後では、居残り中であるにも関わらず窓際で髪をなびかせながら眠りにはいる、一人の女の子の姿があった。

すーすーと規則正しい寝息をたてて、気持ち良さそうに寝ている。

色素の薄い髪が、風にたやすくさらわれていった。

「───………郁原ぁ、また俺の居残りで寝るのか…。いい度胸じゃねぇか」

そんな女子生徒に、新任教師の戸刃とばは凄みを増しながらそう言った。

───だが、女子生徒は無反応。

というか気持ちよさそうに寝ている。

「…………」

戸刃は怒ることなく呆れ、しらけた顔をして教卓へと戻ろうとした。

………すると。


「……王子様ぁ…」


女子生徒が、そう呟いた。

戸刃は目を丸くして、「は?」と繰り返す。

「……うーん…むにゃむにゃ」
「………。…俺の聞き間違いか…?」

戸刃がそう考えていると。

「……ぁ、先生。おはようございますぅ…」
「…やっと起きたか……」

女子生徒───郁原 雪(いくはら ゆき)が、目を覚ました。

「郁原、起きたら早くノート写せ」
「はいわかりま……zZ」←寝た
「………………」

戸刃は再度眠りに入った雪に、ため息をついて“明日も居残り”と書いてある付箋を雪の机に貼り付けたのだった。


■◆■


「戸刃さん」

翌日 廊下で、乃木が前にいる戸刃を呼び掛けた。

戸刃は「あ」と自分の先輩である乃木を見て声を零す。

「戸刃さん、この学校は慣れてきました?」
「はぁまぁ…、でもある生徒がちょっと厄介で…」
「厄介?」

誰ですか、と乃木が優しく言うと、戸刃は少し考えて言葉を発した。

「郁原です。郁原 雪」
「……ああ!両親が郁原財閥の」
「そうです。でも…郁原、俺の居残りの時に限らずすぐに寝るんですよ。授業中の居眠りなんて当たり前」
「はは。お嬢さんは気の抜けたところがありますからねぇ」
「そうなんですが…」

戸刃はそこまで言葉を紡ぐと、「あーもうわけわかんなくなってきた!」と頭を掻きむしった。

乃木は「新任の頃はそういうの多いですよね」と優しく笑う。

「…乃木さん、若いですよね。担任持ってるのに」
「もう24ですよ?」
「“まだ”じゃないすか」
「そういう戸刃さんはいくつなんですか?」

乃木がそう訊くと、戸刃は突然乃木の前でピースをした。

乃木は目の前にあるピースの手に、「えっ?」と気の抜けたような声を出す。

「22です」
「ああ…それでピース…」

乃木は笑って、眼鏡の奥で目を細めた。

「…僕の話も、聞いてくれますか」
「?」
「僕、生徒たちが授業してる時はいつも特別応接室にいるんですけど、いつも決まってそこにある生徒が来るんです」
「ある生徒?」
「…淵菜 雨くんって、知ってますか。今“シンデレラカップル”で噂になってる」
「あぁ。あのばからしい噂。」
「そうです。…で、雨くんは」

乃木は困ったように笑いながら、戸刃を見た。

「前世が、白雪姫の王子様らしいんです」

乃木はそう言うと、「やっぱり雨くんも大人びてるけど子供ですよね」と続ける。

戸刃も笑うと思ったのだろう。

すると───


「え…郁原は、自分の前世は白雪姫だって言ってましたよ」


戸刃がきょとんとそう言って、「俺は信じてますけどね」と乃木を見た。

乃木は───固まったままだった。




郁原 雪の前世は



白雪姫らしい