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- Re: 【短編集】恋して、愛して、抱きしめて。 ( No.10 )
- 日時: 2013/09/17 19:17
- 名前: 八田 きいち。 ◆8HAMY6FOAU (ID: ct0d6aAp)
大きな声で。
「じゃあ、ね」
「……おう」
そう言って、お前は笑って俺から背を向ける。
辺りは暗くなり始め、太陽が西に傾いている。
俺はお前の後ろ姿を見つめて、
見えなくなるまでその場を動かなかった。
俺には好きなやつがいる。
同じクラスの隣の席の女で、
気が弱いけど皆に優しくて、
頼られていて、
俺なんかより頭がよくて、
でも運動は苦手な、
そんな平凡な奴。
でも、笑った顔がものすごく可愛い。
友達と話す時の笑顔。
照れ隠しの笑顔。
俺と話す時の笑顔。
それから……あいつが愛おしそうに見つめる奴に見せる笑顔。
わかってる。
あいつが奴を好きなことくらい。
そいつは、勉強もできるし運動もできるしイケメンだし。
俺なんか足元にも及ばないことくらい、
わかってる。
俺の恋が叶わないことくらい、
わかっている。
だけど、溢れる想いはとめどなく俺に恐ろしいほどの衝動をかける。
嗚呼、あいつにこの想いを打ち明けられたら楽になるのに。
でも、そんなことしたらあいつが困る。
それにもう、答えは決まっているじゃないか。
初恋は叶わないとか、そんなことを言った奴がいた。
確かにそうだ。
俺の初恋は散った。
いや、散る前からわかっていることをなんでみずから散り行こうとするんだ。
そうだ、諦めよう。
あいつに恋する自分なんて忘れよう。
そうすれば、こんな苦しい想いはしなくていい。
「あたしね、転校するんだ」
「……え?」
いつもの一緒の帰り道。
そんな時、お前の口から出た衝撃の一言。
びっくりした。ただそれだけ。
そんな俺の顔を見て、お前は困ったように笑った。
「本当は今日、クラスの皆にいうつもりだったんだけどさ。なんか、いざとなると、寂しくて、言えなかった。」
君だけには言っておこうと思って、とやっぱりお前は困ったように笑う。
俺だけ、という言葉にいささか喜びを感じたが、
それでもなぜか、胸がもやもやした。
「……あいつには、言ったのか?」
「え?」
「…………お前が、好きなやつ」
「……んー、言ってない。だって、もっと別れが辛くなっちゃうもん」
「お前、それでいいのかよ」
「……」
「もう、あいつには会えなくなるんだぞ」
「……」
「話せなくなるんだぞ」
「……分かってるよ」
「じゃあ……なんで、告白しないんだよ!言えよ!」
「言えないよ!だって、だってあの人にはっ……」
『好きな人がいるんだよ?』
嗚呼、お前もか。
お前も苦しいんだな。
今にも泣きそうなあいつを見て、
俺はあいつに腕を伸ばした。
抵抗なんてされなくて、
あいつはただ俺に抱きしめられていて。
俺の胸で静かに泣いていた。
俺にもあいつの悲しみが痛いほど分かる。
分かってしまう。
嗚呼、どうして。
君の好きな人が、
俺じゃないんだ……。
辺りは暗くなり始め、太陽が西に傾いている。
俺たちは、2人。
抱きしめあって、
涙を流した。
その数日後、あいつは転校していった。
あの日、あいつが最後に見せた笑顔は、
俺の大好きな笑顔だった。