コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 序章(プロローグ) ( No.2 )
- 日時: 2013/09/25 16:55
- 名前: 本間あるる ◆uQ8sUBcURw (ID: DboXPOuE)
【序章:どこにでもいる父と子の口ゲンカ】
夜も深まり、街には人影一つない。
ただ、月だけが煌々とアスファルトを照らしている。
草木も眠る丑三つ時、時計台の鐘がゴーンゴーンゴーンと三回、静寂をかき消すように鳴り響いた。
直後、タタタタッとかろやかにアスファルトを蹴る音が木霊す。
月の光で浮かび上がったシルエットは、華奢な少女のものであった。
夜の街に黒いマントをはためかせ、黒いシルクハットを被り、ひたすら家々の間を縫うように走り続ける。
途中、郵便ポストを目前にし、それを跳び箱よろしく飛び越えるが、少女は息切れもせずに、ただひたすらに走り続ける。
——と、何を思ったのか、少女は突如としてその足を止めた。
その場で思いっきり勝ち誇った表情をして、空を仰ぐ。
「今日こそ、……今日こそ、このユア様の絶対勝利ーーっ!!」
拳を突き出してそう叫んだかと思うと、刹那、ババババッと身を翻していた。
なにか、——後方の物陰で、物音がしたのだ。
「だ、……誰、だ……?」
身を引き締め、その暗闇に全神経を集中させる。
「姿を現せ!」
少女の鋭い一言に、店の裏手に積み重なっていた段ボール箱がドスドスドスッと音を立てて崩れ落ちる。
その陰から——、
- Re: 怪盗ユア-満月の夜はBad Night- ( No.3 )
- 日時: 2013/09/25 15:31
- 名前: 本間あるる ◆uQ8sUBcURw (ID: DboXPOuE)
「ニャー」
「ね、ネコちゃん……?」
「……ニャー」
黒猫が金色の目をぎらつかせて、少女に向かって歩み寄ってきた。
「なんだネコちゃんかああ……、ホラホラ、怖くないぞ。こっちおいでー」
少女はその猫を抱きかかえようとしゃがみこんで、
「————っ?!」
瞬間、少女はその場から横っ飛びに飛びのいた。
さっきまで少女がいたアスファルトの裂け目に、葉書サイズのカードが刺さっていた。
「げっ……。起きてたのね」
少女はそう呟いて、かと思うと慌てて逃げ出そうと地面を蹴って、——瞬間、
「——だから背後には気をつけろといつも言っているだろう……」
背後からしたその声の主を確認しようと振り向く途中で、少女の視界が突然、
真っ暗になった。
——その突然の出来事に、少女は一体自分の身に何が起こったのか、瞬時に理解が出来なかった。
しかしその十秒後。
視界が奪われた理由が、故意に頭に被せられたバケツのせいだと分かり、刹那、少女は素早くバケツを頭から剥ぎ取っていた。
一体どこの誰がバケツを被せるなどという、ふざけたことをしてくるのか——少女には、大方の予想はついていた。
————そうだ。【奴】に違いない。
- Re: 怪盗ユア-満月の夜はBad Night- ( No.4 )
- 日時: 2013/09/25 15:30
- 名前: 本間あるる ◆uQ8sUBcURw (ID: DboXPOuE)
「酷いぞ酷いぞ酷いぞパパさん。自分の娘になんちゅー仕打ちをするんだあ!」
バケツを抱えたまま、少女はそうして思いっきり頬をぶうっと膨らませる。
「アッハハハハハ」
いつの間にか目の前に現れた男性——少女と同じような黒帽子に黒マントが、少女を前に、それは可笑しそうに腹を抱えて笑っている。
少女は憮然とした態度でそれを眺める。
「酷くないぞ、ユア」
ひとしきり笑った後で、男性は目尻に浮かんだ涙をぬぐって少女にそう言い含めた。
少女はそれを頑なに否定する。
「いーや、酷いね」
「酷くないったら」
「酷いっ」
「酷くないっ! ……これも、全ては愛する【弟子】のためだ。ウンウン」
「なにが【弟子】だよ! バケツなんか被せてきて……!」
「あれは猫になんか気を取られているお前が悪いんだろう」
「それはっ……」
「全く……猫ごときに注意をそらされるとは怪盗の血筋が泣く……」
「実際はパパさんにやられたんだよー!」
「ユアっ! ……お前、それでも由緒正しい怪盗の血を受け継いだ人間か?! はああ……まったくもう……。今日の訓練もダメダメだ……」
男性はがっくり肩を落とすと、そのまま肩越しに少女を振り返った。
「ユア、今日の訓練結果は、バツ印。よって今日はユアが朝食当番な」
「ええーっ、そんなあー」
「先祖代々由緒正しい怪盗の血筋、それを後世に伝承していくために、愛娘にもこうして辛く厳しい試練を与えなくてはならないのだっ……くうっ……。【師匠】のこの苦しみが、分かるかっ」
「誰が【師匠】よ」
「私だよ」
そうして、男性はぐっと少女を見据える。
「そういうことだ、【弟子】。辛く厳しい試練の一環として、朝食当番、任せたぞ」
「なっ……なにが試練じゃあああーーー!!」
思わず、少女は叫ぶと同時に抱えていたバケツを男性めがけて投げつけていた。
- Re: 怪盗ユア-満月の夜はBad Night- ( No.5 )
- 日時: 2013/09/25 16:31
- 名前: 本間あるる ◆uQ8sUBcURw (ID: DboXPOuE)
しかし、
「だあから『今』は私はお前の父親じゃないって言ってるだろう。私は【師匠】だ。全く……何回言えば分かってくれるんだ、ユア」
軽口を叩かれ、いとも簡単にひょいと躱される。
少女が力一杯ぶん投げたバケツは、涼しげな顔をした男性の真横をひゅんっと通り過ぎていき——
哀れかな、乾いた音を立てて、アスファルトに転がった。
「ぐぐっ……。よけられた……」
目論みが外れ、悔しがる少女。
それを尻目に、当の男性はため息交じりで額に手を当てていた。
ため息とともに、
「はあ……実の父親に反抗するなんて……。私はお前をそんな風に育てた覚えはないぞ」
などという愚痴まで溢す有様だ。
刹那、そのような男性の愚痴に対して、少女はにやりと笑みを浮かべていた。
言ったな、とでも言わんばかりに。
突然の少女の所業に、思わずびくりと身震いする男性。
それに心なしか、周りの気温が一気に冷えたような……。
「あ、あれれー……。ゆ、ユア……、さん?」
「『育てた』、ねえ……」
冷えた目つきで男性を見据える。
少女は嘲笑を浮かべ、静かに両腕を組んだ。
「ねえパパさん。そもそもこうなっちゃったのって、誰のせいだったっけ、ねえ?」
「だ、誰だろう……」
「目をそらさないっ!」
「ハイっ……!」
「それもこれも……」
少女はすぅ、と深く深く息を吸い込むと、直後、
「ママさんに逃げられたパパさんのせいだろーがああっっ!」
街中に響き渡るような、それは大きな声を上げた。