コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 怪盗ユア-満月の夜はBad Night- ( No.11 )
日時: 2014/02/06 23:32
名前: 本間あるる ◆uQ8sUBcURw (ID: XgzuKyCp)

【mission1:カイトウさんはお友だち】

チュンチュンチチチと小鳥がさえずる声がする。
まぶしい朝日がレースカーテンの隙間から差し込んでいる。

紛れもない。
朝だ。

「……でね、お母さん、それはもう嬉しいの。……ねぇ、くり須。聞いてる?」

食卓にて。
まだぼんやりとしている頭をどうにか回転させて、相原くり須(あいはら くりす)は、母親の言葉にやっとこさ耳を傾けたのだった。

「……あ、うん。ごめん。聞いてる」

母親は、先ほどから絶え間なくくり須に向かって話しかけていたらしいが、しかし当の本人は、真夜中に突如として聞こえた「男性の悲鳴のような騒音」のせいで重度の寝不足であったため、相槌あいづちを打つので精いっぱいであった。

食パンを口にくわえ、母親の言葉にひたすら頷く。

「くり須って、あの有名な超お金持ちお嬢様学校をトップで入学したでしょ? あれから一年たって、中学二年生よねえ。未だにテストはトップを独走中って話じゃないの。こないだ先生から直々にお電話いただいたわ。とっても優秀な娘さんですね、だって」
「……そう」
「お母さん、その時ほど電話が愛しいと思ったことはなかったわ。あ、くり須。紅茶のお代わりいる?」
「……うん」

カップに紅茶を注いでから、くり須の母親は、なおも話を続ける。

「そうそう、こないだなんか近所のおばさんがくり須にお世話になったって言ってたわよ」
「ああ……裏の佐藤さんちの……」
「道子ちゃん! くり須お姉ちゃんに失くし物のお人形を見つけてもらったって。それはもう、喜んでたわよ」
「それは良かった」
「もう、くり須ったらどうしてこんなに良い子なのかしらっ。お母さん、嬉しくって嬉しくって……って、あら、お父さん! ネクタイが斜めだわ! お母さんが治してあげるから、じっとしてなさいよ!」

突然甲高い声を上げたかと思うと、いつの間にリビングにやってきたのか——スーツ姿の父親に駆け寄る、くり須の母親。

父親はスーツの上着を片手に、恥ずかしそうに頭をかいていた。

「すまないね、お母さん」
「大丈夫よ、お父さん。……あ、くり須。食べ終わったら制服はそこのカーテンレールにかかってるから。ちゃんと着替えて学校に行くのよ」
「言われなくても分かってるわよ……ごちそうさまー」

新婚ほやほやの夫婦宜しく父親のネクタイを結んでやっている母親を尻目に、くり須はガタンと音を立てて食器を流し台へ運び、その後、手際よく制服に着替えた。

玄関先に放り出していた指定カバンを握りしめ、

「じゃあ、いってくる」
「いってらっしゃい」


バタン——。

玄関の扉を閉めて、軽くため息をつくのだった。

Re: 怪盗ユア-満月の夜はBad Night- ( No.12 )
日時: 2014/02/06 23:30
名前: 本間あるる ◆uQ8sUBcURw (ID: XgzuKyCp)


「…………」

そしてそこには、見慣れない【モノ】がたたずんでいた。
しかも我が物顔で。
前々から、あたかもそこに存在していたかのようにどっしり構えていた。


——たぬきの置物が。



よく居酒屋などの軒先に飾られている、あの狸の焼き物である。
大きさは、ちょうどくり須の背丈の半分。


だがしかし、どう考えても思い出そうとしても、『家の真ん前』に『狸の置物があった』などとという記憶は、残念ながらくり須には思い当らなかった。


「……いや、ウン。昨日までなかった、よね……」


——どうしたというのだ。

父親か母親が連れて帰ってきたとでもいうのか、——いや、それはない。
いくらなんでもそれはない。

うちの両親に限って、そのような趣味など、持ち合わせているはずがなかった。


相原家の自宅の外見内面は、共にヨーロピアン風な印象を受ける。
どう考えても、純和風の狸の置物は、ミスマッチ以外の何物でもない。



——じゃあ、誰が……。

少しばかり思案して、それからくり須はすぐに思い当っていた。


——この置物、まさか……。