コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 【10/28 更新】怪盗ユア【mission1、完了】 ( No.26 )
日時: 2013/10/30 00:42
名前: 本間あるる ◆uQ8sUBcURw (ID: qwR26uHc)

mission2【カイトウさんの最初の任務】

正統な怪盗の血筋である海東柚亜が実の父親から指令を受けて一夜明け——。
何故か柚亜の協力関係者として巻き込まれてしまった相原くり須は、登校して教室についた途端に、すぐさま机に突っ伏していた。
恥ずかしながら、その際にゴンっと鈍い音をたててしまったが、気にしないことにする。

「あっれー、相原ちゃん。どうしたのー?」

そこへ、誰かが声をかけてきた。
くり須はその甲高い声が特徴的な主に応えるべく、ゆっくりと顔を上げる。

「ああ、千咲ちえみ。おはよう。……うん、ちょっとね」
「いつも一緒に登校してくる柚亜っちが見当たらないけどー、……お休み?」
「…………」

そうなのだ。
その海東柚亜であるが。
そもそも、くり須が朝からこんなにも疲れている原因は、柚亜のせいであった。

Re: 【mission2】怪盗ユア-満月の夜はBad-【開幕】 ( No.27 )
日時: 2013/10/30 00:51
名前: 本間あるる ◆uQ8sUBcURw (ID: qwR26uHc)


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昨日、パパさんから『怪盗ローズ』なる者の正体を調査せよとの指令を受けた柚亜は、朝から異様に張り切っていた。見習いながらも1人の怪盗として指令が下ったためだろうか。

とにかく、くり須が朝の待ち合わせ場所に行くと、そこに仁王立ちで構えている柚亜の姿があった。

「……おはよう柚亜。早いわね。まだ7時よ。いつもの集合時間より一時間も早い……」
「遅いぞっ、くり須。いつどこで奴が嗅ぎ回っているともしれないんだからね! ほら、行くわよ!」
「……凄いやる気ね……」

ほらほら、と急かされて、くり須は仕方無しに学校に向かって歩き始める。

その隣を、何故か突然サングラスをかけて、前かがみになって歩く柚亜。
周囲をゆっくり訝しげに見回しながら歩いている柚亜に、くり須は思わずぎょっとして眉をしかめた。

「……柚亜。なに、その歩き方」
「どこで奴が怪しげなことを企んでいるとも分からないからね。こう、しっかり見張らなくっちゃ」
「…………あのねえ」

くり須は肩をすくめると、なおも怪しげな行動をしている柚亜の背中に向かって、

「……柚亜、私、先に行くわね」

柚亜の返事も聞かずに、くり須は先に学校へと向かったのであった。

Re: 【mission2】怪盗ユア-満月の夜はBad-【開幕】 ( No.28 )
日時: 2013/10/30 09:40
名前: 本間あるる ◆uQ8sUBcURw (ID: qwR26uHc)


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そうして、今に至る。

朝の朝礼が始まるまでまだ一時間近くある。

「まあ、色々あってね……。そういう千咲こそ、朝早いわね。まだ7時30分よ」
「私はいつもこの時間よ。ほら、なんてったって、私、いいんちょさんですすから!」
「ハイハイ、偉い偉い」

えっへんと胸を張っている千咲に、くり須は幾度となく繰り返しているいつもの対応をする。さながら脊髄反射のようなものだ。

「そんな"いいんちょさん"、こんな時間から何してるの?」
「教室チェックでしょお、机がきちんと並んでいるか確認して……。それから、花瓶のお水かえて、黒板を綺麗にして、」
「……全部1人でやってんの?」
「いいんちょさんですから! えっへん」
「まって。学級委員って確か、もう一人いたはずじゃないっけ」
「あ〜、さくらくん?」

途端にくり須が大きく顔をしかめる。

「そうよっ! ……確かクラスのみんなが推薦して、……桜くん、学級委員になってなかったっけ」
「なってたねえ」
「それなら何も! ……なにも、1人でやらなくても良いのよ、千咲。アイツにも仕事押し付けちゃっていいんだからね。ね!」

千咲は突然のくり須の剣幕に思わず目を丸くしたが、すぐさま"したり顔"になり、

「ああ〜……相原ちゃんがライバル視してる彼だもんね。勉強が出来てスポーツ万能、おまけに隠れファンクラブが存在するほどの美貌の持ち主で……!」
「あんなの! ただのナルシストじゃないの」
「またまた〜。そんなこといっちゃって実は……」
「それに! 私は、別にアイツをライバルとか思ってないんだからね。入学試験が2番だったか知らないけど、アイツが勝手に私をライバル視してるってだけで……!」
「誰がライバル視してるって?」
「だから桜が……!」
「僕が、なにか?」

思わず教室の後方ドアを振り返ったくり須は、そこで(自称)ライバルの姿を目にした。

Re: 【mission2】怪盗ユア-満月の夜はBad-【開幕】 ( No.29 )
日時: 2013/10/30 19:03
名前: 本間あるる ◆uQ8sUBcURw (ID: EV6MzidG)

色素の薄い髪の色、私立聖ルクス学園のアイドルとも言われる所以ゆえんの整った顔立ち、おまけになんの効果なのか、背景にキラキラオーラを背負っている。

「げっ……桜 凛太郎(さくら りんたろう)、…………くん」
「相原さん。朝から僕の噂かな」
「違いますうー」

——相変わらずだ。勘違いも甚だしい。

「そう邪見にしなくても……せっかく連れてきてあげたのに」

桜はそう言うやいなや、何かを背負って教室に入ってきた。
背負っているのはキラキラオーラだけではない。

人……女子生徒……。

「ゆ、柚亜?!」

どさり、とくり須の隣の席に降ろされたのは、紛れもなく、柚亜その人であった。

「なんで桜くんが……」
「校舎の裏のみぞにはまっていたんだ。歩けないっていうから、僕がこうして、背負ってきてあげたというわけさ」
「あははは。いやあ……面目ない……」

全身砂埃にまみれた柚亜は、冷や汗を浮かべて頭をかく。
桜は、ふう、と1つため息をつくと、窓際まで歩いていき、枠にもたれかかった。

「海東さんは足を捻挫ねんざしていたようでね。まあ保健室で手当てしたから、大丈夫だとは思うけど……」

そこまで言って、桜はすっと目を細める。

「しかし……こんな朝早くから溝にはまるなんて……。海東さん、一体何をしていたんだ? また妙な遊びでもしていたのか?」
「遊びだってえ……? 遊びじゃないっての! 私はねえっ、指令を受けて……!」
「…………指令?」
「そうよ! プライドよ! なんてったって私はね、あの怪と……!」
「ああ〜っ! ハイハイハイ。あのね、柚亜はね、ちょっと探し物をね、してて。ね!」

『自分は怪盗です』と、自ら身を滅ぼすような発言をしかねない勢いの柚亜を、くり須は声を荒らげて慌てて遮った。
訝しげに見ていた桜だったが、「ふうん」と呟いて、それ以上の追求はしなかった。
人知れず胸を撫で下ろすくり須。

「そういえば柚亜っち、埃まみれだよー。手とか顔とか、洗ってきた方が良いんじゃないかな」
「あっ……そうだね」

千咲の言葉に、おもむろに立ち上がった柚亜に続いて、

「いいんちょさんが付き添ってあげましょう!」

何故か付き添いとして千咲も教室から出ていくのだった。



教室には、くり須と桜、二人だけ——。


(な、なんなのよ、この突然のシチュエーションは……?!)

Re: 怪盗ユア-満月の夜はBad Night-【10/30*更新】 ( No.30 )
日時: 2013/10/30 22:34
名前: 本間あるる ◆uQ8sUBcURw (ID: qwR26uHc)


くり須は心の中で叫びながらも、しばらく、この微妙な空気に無言を徹していた。が、ふと桜の様子が気になり、ゆっくり後ろを振り返ってみた。
腕を組んで窓枠にもたれかかっている桜の姿が目に入り、思わず見惚れてしまう。

なんだかんだ言っても、やはり見た目"だけ"は良いことを認めざるを得ない。
陽の光が降り注ぎ、桜のつややかな髪と肌を反射している。

——まつ毛も長いし……、綺麗な顔して……。

「何か、ついてる?」
「へっ……?」

突然かけられた言葉に、不抜けた声で返事をしてしまった。
慌てて姿勢を正すくり須。
桜がじっとくり須を見返していた。

「な、何もっ……!」
「そう? 僕のことじっと見つめてたけど」

なんて恥ずかしい奴なのだ。
思っていても、口にする言葉ではない。

「そ、外の景色を見てたのよ! アンタの顔なんか、見惚れてないんだからね!」
「ふーん。じゃあ、そういうことにしておきますか」
「…………」

やっぱり苦手だ。コイツ。

くり須はしばらくパクパクと空気の足りない金魚よろしく口を動かしていたが、ふと気になったことを口にした。

「そういえば。桜くんはこんな時間から校舎裏で、何やってたわけ?」

別に、恥ずかしさを隠すためじゃない。あくまで、気になったことを尋ねているだけだ。
背中を向けたまま尋ねているのは、なにも、そんなことがあるわけではなくて——。

「……ん?」
「ホラ、校舎裏で柚亜を見つけた、って言ってたでしょ。普通、用がなければあんなところなんか、訪れないでしょ」

その言葉に、桜は、ふっ、と微笑した。
どの角度で相手を見れば自分が一番輝いて見えるのか、計算し尽くされた立ち姿だ。

「なっ、なにがおかしいのよ」
「"普通"は、訪れない、ね」
「なによ、普通じゃないっての」
「ああ。僕は、常人とは違う。それは君も良く知ってると思うけど」

にっこりと微笑みかけられ、くり須は思わず悪態をつく。

「あー、そうだったわね。アンタは、超のつくほどカッコつけでナルシストだったわ」
「常人とは頭の作りも出来も違う……それは相原さんにとって考えなくても分かっていること……だろう?」

どこまで嫌味ったらしい言い方なのだ。

「まあ、君には未だに勝てないけどね」
「なっ……!」

ぞわぞわと背中が震え、振り向こうとしたくり須の背後で、靴音が鳴り響く。

「海東さんたちの様子を見てくるよ。いくらなんでも時間がかかりすぎだからね」

ドアを閉める音が教室に響く。
途端に、くり須は一気に机の上に脱力した。

「疲れた……」

その言葉は溜息とともに教室に吐き出されるのであった。