コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 怪盗ユア-満月の夜はBad Night-【10/30*更新】 ( No.32 )
- 日時: 2014/02/06 23:19
- 名前: 本間あるる ◆uQ8sUBcURw (ID: XgzuKyCp)
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一方、噂の海東柚亜はというと。
階段近くの手洗い場の前で、仁王立ちしていた。
蛇口から水を出しっぱなしにしながら、眉間に皺を寄せて、目の前の鏡を睨みつけていた。
「取れろっ、この、汚れ〜〜ッ!」
擦っても濡してもかなか落ちない頬の汚れに、柚亜は半ばやけになっていた。
直後——
『ドサリ』。と。
なにやら重々しい音が廊下に響き、何かが柚亜の背後で倒れた。
「ちーちゃん……?」
恐る恐る振り返る。
そこには、柚亜の予想通り、千咲が倒れ込んでいた。
うつ伏せになって床に突っ伏している。
柚亜はすぐさま駆け寄った。
「ちーちゃん。ちーちゃん……?!」
いくら声をかけても、揺さぶっても、ピクリとも反応がない。
嫌な予感しかしない…………。
『驚いているようだね』
ハッと声のした方向をみると、階段の踊り場に赤いマントを身につけた見知らぬ人物が立っていた。
- Re: 怪盗ユア-満月の夜はBad Night-【更新再開】 ( No.33 )
- 日時: 2014/02/07 20:18
- 名前: 本間あるる ◆uQ8sUBcURw (ID: XgzuKyCp)
「貴方、誰」
『誰か、だって? 愚問ですね』
赤いマントが嘲るように笑う。
その赤い仮面の下には、真っ赤に歪んだ唇が覗く。
『否。オマエは知っているはずだ』
「私は貴方なんか知らない」
『いいや。知っているはずです』
スッと白い手袋を付けた手を、自身の胸元に当てる。
『ワタシは、《怪盗ローズ》』
続けて、その手を柚亜に向ける。
『そしてオマエは、《怪盗ユア》』
柚亜の表情に驚きが広がる。
《怪盗ローズ》と名のった赤いマントは、尚もクツクツと笑い声を立てる。
仮面のせいで、表情は良くわからない。
『今日はオマエに忠告にきたのです』
「忠……告?」
『今回の件から手を引きなさい。さもないと、そこの娘のように。否、それ以上に酷い目にあうよ』
柚亜の胸元に収まっている千咲の表情は、今も微動だにしない。
「あなた……は……」
——そうか。
柚亜は1人そうつぶやいて、抱き起こした千咲から顔を上げる。
「あなた、パパさんでしょ」
突如として、そう言いきった。
怪盗ローズの動きが止まる。
「あなたはパパさんだ。そうだよ。柚亜にそうやって脅しをかけてわざと失敗させようとしてるんだ。そうでしょ。残念無念また来年っ! ユアちゃんはそんな手にはのらないよーだっ」
刹那、素早く跳躍して踊り場にいる怪盗ローズとの間を詰める。
柚亜と怪盗ローズの距離がぐっと縮んだ。
「違う?」
『…………』
呆気にとられたのか。はたまた突拍子もない発言に言葉を無くしたのか。
怪盗ローズは黙り込んだ。
——否、静かに笑っていた。
『そうか。そう思うか』
クツクツ、クツクツ……。
不気味な笑い声を立てて、廊下に横たわっている千咲を見やる。
柚亜も釣られて、階段下の千咲に視線をやった。
『まあせいぜい、気をつけるんだな』
そういう言葉がつぶやかれ。
耳にしたと思った、直後。
柚亜がふと振り返ると、そこには既に《怪盗ローズ》の姿は無かった。
そう。
その場から忽然と姿を消してしまったのだった。