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Re: 怪盗ユア-満月の夜はBad Night-【更新再開】 ( No.33 )
日時: 2014/02/07 20:18
名前: 本間あるる ◆uQ8sUBcURw (ID: XgzuKyCp)



「貴方、誰」
『誰か、だって? 愚問ぐもんですね』

赤いマントがあざけるように笑う。
その赤い仮面の下には、真っ赤に歪んだ唇が覗く。

『否。オマエは知っているはずだ』
「私は貴方あなたなんか知らない」
『いいや。知っているはずです』

スッと白い手袋を付けた手を、自身の胸元に当てる。

『ワタシは、《怪盗ローズ》』

続けて、その手を柚亜に向ける。

『そしてオマエは、《怪盗ユア》』

柚亜の表情に驚きが広がる。
《怪盗ローズ》と名のった赤いマントは、尚もクツクツと笑い声を立てる。
仮面のせいで、表情は良くわからない。

『今日はオマエに忠告にきたのです』
「忠……告?」
『今回の件から手を引きなさい。さもないと、そこの娘のように。否、それ以上に酷い目にあうよ』

柚亜の胸元に収まっている千咲の表情は、今も微動だにしない。

「あなた……は……」

——そうか。

柚亜は1人そうつぶやいて、抱き起こした千咲から顔を上げる。


「あなた、パパさんでしょ」

突如として、そう言いきった。
怪盗ローズの動きが止まる。

「あなたはパパさんだ。そうだよ。柚亜にそうやって脅しをかけてわざと失敗させようとしてるんだ。そうでしょ。残念無念また来年っ! ユアちゃんはそんな手にはのらないよーだっ」

刹那、素早く跳躍して踊り場にいる怪盗ローズとの間を詰める。
柚亜と怪盗ローズの距離がぐっと縮んだ。

「違う?」
『…………』

呆気にとられたのか。はたまた突拍子もない発言に言葉を無くしたのか。
怪盗ローズは黙り込んだ。

——否、静かに笑っていた。


『そうか。そう思うか』

クツクツ、クツクツ……。

不気味な笑い声を立てて、廊下に横たわっている千咲を見やる。

柚亜も釣られて、階段下の千咲に視線をやった。

『まあせいぜい、気をつけるんだな』

そういう言葉がつぶやかれ。
耳にしたと思った、直後。

柚亜がふと振り返ると、そこには既に《怪盗ローズ》の姿は無かった。


そう。
その場から忽然こつぜんと姿を消してしまったのだった。