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悪意と不思議な出来事【37】 ( No.101 )
日時: 2014/10/05 22:04
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: 2CRfeSIt)

 夜道を歩く、傷だらけで服が泥だらけの俺。警察官に見つかったら、職務質問は必至だろう。
 あの後、先輩はケガの心配をしつつ、名残惜しそうに見送ってくれた。本当にあれはなんだったんだろうか? その前に起こった甘い出来事は、あの一件のおかげですっかり上書きされてしまった。ともあれ、なんとか風見鶏にたどり着いた。

「……すいません、遅くなりました」

 おそるおそる扉を開き、店の中へと足を踏み入れる。

「バカヤロー!! 今何時だと——って、準一!! その格好どうした!?」

 マスターの怒号が飛んできたかと思えば、急に心配するような驚いたような声に変わる。

「すいません。ちょっと階段から転げ落ちまして」

「あぁ? 階段から落ちると、顔が傷だらけになって服も泥だらけになんのかよ? どんな階段だそれ」

 ケガの理由は言いたくなくて、とっさに言い訳をしたが、よく考えたらこんな状態になっていれば疑われるに決まっている。

「……すいません。シフトに穴をあけてしまって」

「……別に構わねぇけどな。今日はあいつもいたし、渚もいたからよ」

 それ以上の追求はせず、マスターは俺の謝罪に苦々しくそう返す。『あいつ』とは、この間見たマスターの姪の事だろう。この間はつっかかってきてバイトを1日ふいにされてしまったからか、あまり印象は良くないが、後で謝ってお礼も言っておこう。

「それより準一、そんなんで仕事できんのかよ?」

「大丈夫です。やれます」

 正直、体中が痛くて歩くのも辛いが、自分の責任であるし、これ以上迷惑はかけられない。

「なーにが、やれますだ。この、遅刻魔」

「ぐぉ!?」

 不意に背後からの衝撃で、崩れ落ちる。
 若干涙目になりながら振り返ると、そこには白い七分袖のシャツに黒いフリルのスカート、ツインテールのお子様が腕を組んでふんぞり返っていた。その後ろで、渚が慌てたような表情でこちらを見ている。

「お、お前ぇ! トレーで叩くんじゃない! めちゃくちゃ痛かったろうがっ」

「ふん、軽くしか叩いてない。それより、遅刻魔、お前の出番はないからさっさと帰れ」

 あいかわらずこのお子様は。大体、なんだって俺を目の敵にしてるんだ。なんか、「ありがとう」って言いたくなくなってきた。

「芽生ちゃん、叩いちゃダメだよ。準一は、何か理由があって遅れてきたんだから」

「しかし、渚——」

「ダメだよ。芽生ちゃん」

「……うっ」

 渚に窘められて、口をつぐむお子様。
 どうやら、芽生ちゃんというのは、こいつの事だったみたいだ。さすがは幼なじみ、ちょっとスカッとしてしまった。

「で、準一、理由をゆっくり聞きたいんだけど」

 笑顔のまま俺の方に振り返り、問い詰めるような視線で見つめる渚。その笑顔が怖い。

「あぁ、でも、これから仕事——」

「マスター! 準一借りていいですか?」

 俺の言葉を遮るように、渚がマスターに尋ねる。

「おぅ、休憩やっから、2階でじっくりしぼってやれ」

「だってさ。準一」

「……はい」

 どうやら、最大の難所はこれからみたいだ。