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悪意と不思議な出来事【38】 ( No.102 )
日時: 2015/04/25 16:11
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)

「それで、何でそんなボロボロなの?」

「いや、これには深い訳があってだな。話すと長くなるというか、あまり話すような事じゃないというか」

「話して」

 風見鶏2階の居住スペースの一角、六畳くらいのフローリングの部屋が従業員の休憩スペースになっている。そんな所で椅子に座り、さながら事情聴取される犯人のように、渚に問い詰められる俺。

「はぁ、聞いても楽しい話しじゃないぞ?」

 前置きしてから、これまでの経緯を話し始める。ラブレターだと思った物は実は悪質なイタズラで、二人組の男から逃げるため怪我をした事、そのまま眠ってしまって、遅くなった事、先輩とのあれこれは、話しがややこしくなるので言わないでおいた。

「な、なんですぐ連絡しないのよ!?」

「いや、忘れてて」

 俺がそう言うと、渚は肩をすくめてため息をつく。

「あのね、準一。大怪我してからじゃ遅いんだよ? 今回だって、下手したら……」

 渚はそう言いかけて、途中で口をつぐむ。その目は不安げに揺れている。今回の件は、全面的に俺が悪い。もし、渚が同じ事をしたら俺は同じように怒るだろう。 

「……悪かった。俺も渚が同じように危ない真似したら、怒ったと思うし、心配もするしな」

「……わかればいいの。あぁ、安心したらお腹空いちゃった。ね、準一、ご飯まだでしょ? バイト終わったら何か食べにいかない?」

「あぁ、そりゃかまわな——」

 そう言いかけて、ハッとする。思い出すのは、先輩の言葉。俺は用が済んだら戻ると約束していた。

「……うん? 何か予定でもあった?」

「あぁ、いや、用というか、なんというか」

 先輩の事を話してないだけに、歯切れの悪い言葉になってしまう。渚に話すか? でも余計ややこしくなるのは避けたい。

「むむっ、準一、まだ何か隠してるでしょ?」

「そ、そんな事はない」

 渚は訝しむように俺をジト目で見てくる。鋭い……それとも思ってた事が顔に出ていたんだろうか? 

「やっぱり隠してる。私にも話せない事なの?」

「……いや、その、話せない訳ではないのだが、誤解するなよ?」


 ***


「ふーーん、準一は、私がすっごい心配してる時に、先輩とイチャイチャしてたんだ?」

 これまでの経緯で、話していなかった先輩との事(もちろん、手錠がどうとかそこは話していない。先輩のイメージが崩れるだろうし)を話すと、途端に不機嫌になる渚。さっきから浮気が見つかった恋人の図のようで、どうにも据わりが悪い。

「イチャイチャなんて……してないぞ」

 してないよな? 密着する事はあったが、あれは事故というか、風邪にかかってしまったようなもので。実際、何もしてないし。

「あぁー! なにその間は!? やっぱりしたんだ、先輩とイチャイチャしてたんだ! 興味ないとか言ってたくせに、頭の中では興味津々だったんだ!」

 顔を真っ赤にして、俺の体に弱めの連続グーパンチ飛んでくる。普段ならどうって事はないが、今は怪我人、いたわってほしい。

「ちょっ、ばか! やめろ」

「この間だって、先輩とデレデレしながら話してたし、そんなに年上がいいの!? どうせ私は先輩みたいに、清楚で綺麗じゃないですよ!」

「な、なんでそこで、渚が出てくるんだ? 別にお前だって、充分可愛いし、男子にもモテてるだろ?」

 渚は自分じゃ言わないが、モテるタイプだ。先輩とは違い、アクティブなイメージが強いが、それが良いと毎回言い寄ってくる男は後を絶たない、だけど渚は全部断っているようだ。俺がそう言うと、渚は頬を膨らます。

「……そんなの意味ないもん」