コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 悪意と不思議な出来事【39】 ( No.105 )
- 日時: 2015/04/25 16:13
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)
「意味ないのか?」
「……そうだよ、意味ないもん。準一にはわからないだろうけどね」
渚は少し不満そうに視線を逸らす。
そう言われてしまうと、気になってしまうのも、また人情というものだろうが、イタズラに人の心に踏み込むのは好ましくない。もし、俺が同じような立場なら踏み込んでこないでほしいと思うだろう。
「わかった、いつか言いたくなったら教えてくれ。それと、俺は超能力者じゃない。渚の言いたい事が全部わかる訳じゃないんだ、だから——」
「わかってるよ。でも、言えない事もあるんだもん」
少し拗ねたような口調で渚は俺の言葉を遮った。やはり、俺にはわからない何かがあるのだろう。幼なじみとしては、少しばかり寂しい気もするが、やはり踏み込む事はできないな。
***
——結局、渚とはそれ以上の会話をする事なく店に戻り、遅れてしまったがバイトに入った。が、思った以上に体が動かず、マスターに早上がりと怪我が治るまでの休養を言い渡されてしまった。はぁ……自業自得とは言え、このままでは俺の生活費がヤバい。
「準一」
「うん?」
力なく風見鶏の扉を開けて、帰ろうとすると、渚に呼び止められた。
「あの……さ、今日はまた綾瀬先輩の所行くの?」
「……戻るって約束しちゃったし、とりあえず家で着替えだけしたら戻る予定だよ」
俺がそう言うと、渚の表情が曇る。先ほどの会話から気まずい雰囲気だっただけに、さらに重い空気が流れてしまう。
「……へ、変な事しない?」
渚は、恐る恐るといった感じで問いかけてきた。……変な事ってなんだ? むしろ、先輩の方が変な事してきたけど、(手錠かけてきたし)それは言えない。
「しないよ」
「で、でも、先輩、綺麗だし、一緒に居たら……」
渚が何で心配をしているのかわからないが、その心配はいらないと思う。そりゃ、俺だって近寄られればドキドキもするし、勘違いだってしそうになる。興味がまったくないと言えば嘘になるし、いつかは自分にも恋愛して恋人ができる日が来るかもしれない。
ただ、今の俺は正直それどころではないのだ。生活費を稼がなくてはならないし、勉強だってしなくてはならない。時間というものは、有限であり無限ではない。ひとたびバランスを崩せば、明日住む家すらなくしてしまう。実家に戻る事を考えてない以上、頼れるのは自分だけだ。
「俺には、やらなくちゃいけない事がいっぱいあるしさ。正直、バイトしないと生活できないし今は他の事考えてないんだ」
「……だったら、準一、家の子になればいいのに」
「楓さんも昔そんな事言ってたけど、楓さんや渚に迷惑かける訳にはいかないよ」
「迷惑じゃないよ。準一なら」
「あぁ、この話はおしまいだ。とにかく、渚にも楓さんにも頼る訳にはいかない」
俺は半ば強引に会話を切って、踵を返す。渚は、何か言いたげな表情をしていたが、それ以上話を続ける事はなかった。
***
久しぶりに自宅近くの道を歩いて、我が家に着いたはずなのに見慣れたはずのアパートが見当たらない。
通い慣れた道を間違うはずもないのだが、どうにも『家』がないのだ。
そこにあるのは、空き地。こんな所に、空き地なんてあったか? そこには木材が焦げて、炭になったような物が散乱している。
「……おかしいな」
一昨日は渚の家に泊まる事になり、そのまま学校、今日は偽ラブレター騒ぎで夜遅くなってしまい、自宅に帰ってくるのは約2日ぶりくらいだ。だが、2日くらいで道を忘れるはずはないし、家がどこかへ行く事もない。頭を捻っていると、背後から2つの低音の声が聞こえてきた。
「ここのアパート、火事で全焼だってよ。やだやだ、冬は多いよな」
「まったくなぁ。住民が誰も居なかったから良かったものの……」
待て、待て待て。
火事だと? 全焼って、じゃあなにか? 俺の家具やら持ち物やら、全部——
「なんてこった!!」
思わず大声で叫びながら頭をかかえてしまう。なに? 仏滅が三重くらいになって、俺の所来ちゃったの? 神も仏もないな、この世は。
「君、大丈夫?」
俺が大声をあげて、うずくまるように丸まってたためか、先ほど俺の後ろで話していた人達に声をかけられてしまった。
「……えぇ、大丈夫です。少し想定外の事が起きて驚いただけですから」
「もしかして君、ここの住民? いやぁ、なんというか、気の毒にねぇ。ほら、これあげるから元気出して」
髪を紫色に染め、黄色を基調とした奇抜なファッションに身を包んだ少し強面(別の意味でも怖い)のおじさんが、俺の手に飴玉を握らせながら励ましてくれた。イチゴ味だった。……俺は子どもか。