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ユキと紗織【41】 ( No.107 )
日時: 2015/04/25 16:16
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)

 ——お姉さん? って事は、先輩はユキのお姉さんで、ユキは先輩の妹という事になる。そんな当たり前の事に思考が追いつかないくらい、今の俺は混乱していた。今のいままで気づかなかったが、先輩とユキの容姿は似ている。ユキが大きくなったら先輩のようになるんではないか、と。
 いや、まだそう結論づけるのは早計だな。ユキには謎が多い。最初こそ原因というか、正体をつきとめようとしていたが、途中からそんな事を考えるのがどうでもよくなって、そのままにしていた。
 もしかしたら、先輩の家にユキの謎を解く鍵があるかもしれない。

「あ、あの清川くん? どうしました?」

 あまりに長い間黙っていたせいか、先輩が不安げな瞳で俺を見つめていた。
 とにかく、今は情報がほしい。多少リスキーだが、真実がわかればユキの為にもなるはずだ。

「いえ、なんでもありません」

 そう言いながら、ユキの首根っこを掴んで、これ以上話しがややこしくならないようにする。

「むぅ〜、お姉ちゃんとお話ししたい」

「バカ、お前の姿は他の人に見えないんだから」

「き、清川くん、や、やっぱり怒っているんですか?」

 ユキの発言に俺がツッコミ、俺の言葉を先輩が聞いて、誤解される。
 なんとも面倒なシステム(?)だ。この場は上手くごまかすしかないな。

「いや、最近ひとり言が多くなって。気にしないでください」

「は、はぁ……」

 俺がそう言うと、先輩が少し困ったような表情に変わる。
 そりゃそうか。『ひとり言が多くなって』って、そんな事を自分で言うなんて変な奴だもんな。我ながら苦しい言い訳だったな。


 ***


 落ち着いた部屋の雰囲気に包まれながら、手錠を再びかけられた俺。
 ユキは物珍しそうに、その状況を見つめていた。先輩も先輩で、ちょっと恥ずかしそうにモジモジしながら手錠をかけるもんだから、なんだか妙な空気になる。
 と、俺の目的は先輩に手錠をかけられる事ではない。
 ユキと先輩の因果関係について、だ。
 そのためには、先輩の過去を調べる必要があるだろう。ユキの言っている事が本当だとしたら、アルバムもしくは家族構成を聞けばわかるはずだ。
 だが、その前に聞いておきたい事があった。

「一応聞いておきたいんですが、この手錠をする意味はあるんですか?」

 先輩が言ったように、手錠をする事で逃げないようにすると言うならば、なぜ逃げないようにする必要があるのだろう? 

「……き、清川くんが逃げないようにするためです」

「それは前にも聞きました。そうではなくて、なぜ逃げないようにするかの意味を知りたいんです」

 おとなしく手錠かけられる俺も俺だけど、せめて意味くらいは知りたい。
 先輩はしばらくの間逡巡してから、ゆっくりと口を開いた。

「……好き、だからです。清川くんの事。誰にも取られたくないんです」

 弱々しく紡がれた言葉とともに、先輩の整った顔が歪む。その澄んだ瞳からは、今にもこぼれ出しそうな涙が溜まっていた。

「……困り、ますよね。でも、清川くんの事ずっと前から好きなんですよ? 子供の頃からずっと。清川くんは、私の事を覚えてないようでしたけど……私は、忘れた事はありません」

 何も言えずにいると、先輩はしゃくりあげながらそう続けた。
 先輩と俺は昔、会った事がある? ぼんやりと、初恋という淡い想いを抱いた、少女の姿が頭の中に思い浮かんだ。そんな、偶然があるのか? けれども記憶の中の女の子は、先輩と符合する点が多い。それに先輩の性格から考えても、この状況で嘘を言っているとは考えにくい。
 生まれて初めて、人に好きだと言われた。それも、あの時抱いた淡い恋心の相手。

「お姉ちゃん、そう、だったんだ。だから、あの時……」

 俺がなんと言えばいいか悩んでいると、隣りにいたユキが何かに納得がいったかのように呟いていた。