コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- ユキと紗織【43】 ( No.113 )
- 日時: 2015/04/25 16:18
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)
先輩のマンションから外へ出ると、冷たい風が吹きつけてきて俺の体温を奪っていく。携帯で時刻を確認すると、既に日付が変わっていた。
「ねぇ、何でお姉ちゃんの家に泊まらないの?」
そう言って、ユキは不思議そうな表情をして俺に問いかけてきた。
「先輩と俺は付き合ってないからな。付き合ってもないのに、異性の家に泊まるのはいけない事なんだ」
前回、渚の家で同じ部屋に泊まった事はユキには言わない。あれは色々な意味でノーカウントだ。
俺の言った事がよく理解できないのか、ユキは首を傾げて考えこんでいる。俺もユキに聞きたい事があるのだが、まずは今夜の寝床を探さなければいけないだろう。
「……起きてるといいんだけどな」
携帯を取り出して、アドレス帳から涼の番号を探す。と言っても、探すほどアドレスが登録されてないのですぐ見つかった。
通話ボタンを押して、コールする。……一回、二回。三回目のコールで涼が出た。
『おっ、準一が俺に電話なんて珍しいな。こんな夜中にどうしたんだ?』
「夜遅くに悪いな。急で悪いんだが、今日泊めてもらえないか?」
『それは構わないけど、何かあったのか?』
「実は、家が火事で燃えて。涼に断られると野宿になる」
『はぁ!? 大変じゃないか! と、とりあえず来いよ。あっ、迎えに行くか?』
「いや、大丈夫だ。急なのに悪いな」
通話終了ボタンを押して、一息つく。……ふぅ、急だったから断られたらどうしようかと思ったが、これで寝床は確保できた。
「よし、ユキ行くぞ」
「はーい」
***
静まりかえった住宅街をユキと2人並んで歩く。歩幅が違うせいか、意識して歩調を合わせないとすぐに距離が離れてしまう。
「なぁ、先輩がユキのお姉さんって本当か?」
涼の家に着けばユキと会話はできない。それならば、今聞いてしまうのがいいだろう。幸い人通りはないし、怪しまれたりはしないはずだ。
「……うん、何でだろう。ユキ、ずっと忘れてたみたい。でも、お姉ちゃんと会って思い出したんだ」
そう言って、ユキは俯きながら少し寂しそうに口を開く。
「……何を思い出したんだ?」
「前にね、お姉ちゃんがユキの格好で遊びに行った事があるんだ。その時は、どうしてなのかな? くらいにしか思ってなかったの」
俺は相槌を打って、話の続きを促す。
今気付いたけれども、ユキの口調が少し変わった気がする。前はもっと、こう、幼いっていうか、見た目と相応の話し方だったけれども。
もしかしたら、先輩と会った事でユキの中に変化があったのかもしれないな。
「でもさっき、お姉ちゃんに会ってわかった。お姉ちゃんは私と同じ気持ちだったんだって」
「はっ? どういう事だよ?」
俺がそう問いかけると、ユキは俺の問いかけに答える事なく小さく首を横に振った。
「……準くんは知らない方がいいかも。その方が幸せだと思うな」
「な、どういう意味だよ? って、今俺の名前……」
今まで、ユキは俺の名前を呼んだ事はない。いつもは、『ねぇ』とかだったのに。この感じだと、ユキのあやふやだった記憶は戻ったと考えた方がいいかもしれない。
それにしても、知らない方が幸せとはどういう事だ? 俺は人の過去なんて詮索する趣味はないが、さすがに気になってしまう。──やはり、なんとかするべき、だよな。
そんな事を考えながら歩き、気付くと涼の家の前に着いていた。