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それぞれの想い【44】 ( No.116 )
日時: 2014/09/06 20:08
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: woIwgEBx)

「準一、大丈夫か?」

「あぁ、大丈夫だ。悪いな、急なのに」

 突然訪ねてきたというのに、嫌な顔一つしない涼を見ていると、友達というものは良いものだなと思ってしまった。
 深夜という事もあり、涼のおじさんとおばさんには明日了解を取る事になっている。

「しかし、凄い部屋だな」

 部屋中に暗幕が張ってあり、家具も全て黒で統一されている。
 天井には小さなスポットライトが2、3個ほど設置されているだけで、それ以外の照明器具は見当たらない。例えるなら舞台の上みたいな感じだ。

「この方が落ち着くんだ。それに、暗い方が霊は出てきやすいだろ?」

「そうか? ってか、本当にオカルト好きだな」

 この部屋に居たら目が悪くなりそうだな。もしかして、それで涼は目が悪くなったんだろうか?
 それにしても、オカルト好きは相変わらずみたいだな。それ系の専門書なんかも本棚にギッシリと並んでいる。

「まぁ、俺のアイデンティティみたいなものだからな。それより準一、家が火事だって言ってたけど、今後どうするんだ?」

 涼は真剣な表情をして問いかけてくる。
 確かに、このまま涼の家に世話になる訳にはいかない。かと言って、未成年で学生の俺が親の承諾なく普通のアパートを契約できるほど甘くはないだろう。あそこの大家さんが、父さん知り合いだったからこそ契約できた訳で。

「……まだ考えがまとまらないが、とりあえず明日大家さんに話してみるつもりだ」

「……そうか。しかしお前、こんな時でも冷静なのな。普通はもうちょっとパニックになったりするもんだぜ?」

 涼が少し呆れたようにそう言って肩をすくめる。
 そういうものなのか? と言うか、それほど冷静でもないと自分では思うのだが。

「まぁ、準一らしいっちゃらしいよ。とりあえず上着貸せよ。かけてやるから」

 涼が手を伸ばした瞬間、俺は上着ユキを抱え込むような体勢でブロックする。
 あ、危ない。涼にまで変態疑惑を向けられたら俺は死ぬ。わりとマジで。
 善意の行いをブロックされた涼は訝しむような目で俺を見ていた。

「な、なんだよ? 上着をかけちゃマズいのか?」

「……そ、そんな事はない。そんな事はないが、俺は結構寒がりだから」

「その割には、上着脱いで入ってきたじゃないか」

 ……く、苦しい。
 上手くごまかしたいが、もっともらしい理由が思いつかない。

「ふぁ、準くん……そんな強く抱きしめたら苦しいよ」

動揺のあまり、ユキ(上着)を強く抱きしめていたらしく、ユキが苦しそうな声を漏らす。

「……仕方ないだろ。今お前のワンピース見られたら、俺は変態確定なんだから」

 ユキにだけ聞こえるよう、涼に聞こえないくらいの小声で話す。

「……うぅ、恥ずかしいよ」

 恥ずかしさのあまり、ユキは頬を紅潮させながら俯いてしまった。
 恥ずかしいのは俺も一緒だ。
 涼には見えてないといえ、人前でこんな事するなんて。いや、人前じゃなくても恥ずかしいんだが。ってか、ユキのやつ本当に変わったな。前なんて、そんな事気にしてないって感じだったのに。

「……ま、まぁ、準一がそう言うなら、無理にとは言わないぞ」

「……助かる」

 空気を読んだのか、これ以上の押し問答は無意味と考えたのかはわからないが、涼は困惑気味な表情をして、そう言ってくれた。
 ──ふぅ、やっぱりユキを連れて出歩くのは大変だな。