コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- それぞれの想い【45】 ( No.117 )
- 日時: 2014/09/01 19:11
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: 5Iu.5lPh)
今日は色々な事があったせいか、何だか眠りにつけなかった。俺は涼が用意してくれた服に着替えて、真っ白な来客用の布団の上で横になっている。
俺の服は土や何かで汚れていて、着替えたくても家が火事で燃えてしまったため予備すらない。不幸中の幸いだったのは、当面の資金は今までバイトしながら少しずつ貯めていた貯金でなんとかなりそうだということ。(キャッシュカードは持っていて良かった)
今の切実な問題は住む場所だろうか。この問題が解決しないと、貯金だけでは厳しくなる。
「眠れないのか?」
「ん? あぁ、ちょっと考え事をな」
涼が気遣ってか俺に話しかけてきた。もう2時を回ったというのに、少し申し訳ない気持ちになってしまう。
ちなみにユキは、俺の布団の横でちょこんと座っている。そういえばユキは眠くならないのだろうか? それに、今日は随分と長く一緒に居る気もするな。
「……よし、ならさ普段話せない男だけの会話をしようぜ」
「普段話せない事ってなんだよ?」
別に普段話せないような事なんてないけどな。俺が問いかけると、涼は少し呆れたような表情で見つめてきた。
「いや、ほら。好きな女子の話とかあるだろ?」
「別に俺はそういう話はないかな。それより、涼がそんな話をするなんて意外だな」
「俺だって話くらいはするさ。それに、好きなやつの1人くらいは居る」
「……意外だ」
そんな事には興味ないって感じだと思ってたけど、涼も興味あったんだな。しかも、好きな人まで居るとは……。
「誰か聞かないのか?」
「聞いた方がいいのか?」
質問に質問で返すと、涼は「やれやれ」とでも言いたげな表情で肩をすくめた。
「準一、綾瀬先輩の事どう思ってるんだ?」
「なんだよ急に。……よくわからないってのが正直なとこかな」
先輩の告白の事は、涼に言うべきではないだろうな。わざわざ人に言う内容ではないし、先輩だって言われたらいい気はしないだろう。
「……そうか、準一が綾瀬先輩と上手くいったら俺も踏ん切りがつくんだけどな」
涼の何か含んだ言い方に、つい「どういう意味だ?」と尋ねたくなってしまうが、そこに踏み込んではいけないような気もして躊躇してしまう。
「あっ、涼くんはもしかして……」
俺が何と返すか迷っていると、すぐ隣りで俺達の様子を見ていたユキが声をあげた。
気になった俺はユキに視線だけで問いかける。すると、ユキは理解したのか言葉を続けた。
「……涼くんは多分、あの人が好きなんだよ。ほら、前、準くんの家に来てた人」
「……はっ!? 涼が渚の事を!?」
あまりに大きな声を出して驚いたせいなのか、俺の言葉が核心をついていたからなのかは知らないが、涼は俺を見ながら驚きの表情を隠せないでいた。
「……よ、よく、わかったな」
「あぁ、いや……」
すぐさま隣りに居るユキに視線を向けて「どうしてわかったんだ?」と目で問いかけるが、ユキは「なんとなく、かな」とだけ言って微笑んでいた。
「……その、なんだ。新谷さんは、準一の事気にしてるだろ? 俺、新谷さんが笑顔でいてくれるなら、それでいいって思っててさ」
涼は真剣な表情で言葉を紡いでいく。
それはまるで俺達の関係が壊れないように、慎重に言葉を選んでいるようだ。
「準一と新谷さんが付き合うなら、それでいいって思ってた。準一は気付いてないかもしれないけど、新谷さん最近すごく寂しそうな顔してるんだ」
「…………」
涼は一瞬だけ視線を逸らして、遠く見るように目を細めた。
「準一、俺はお前を信じてる。けど、新谷さんを泣かせたら、準一でも許さない。それだけは覚えておいてくれ」
「……肝に銘じておく」
涼の真剣な眼差しに俺はそう言って頷いた。渚は俺にとっても大事な人だ。渚が居なかったら、今の俺はなかったと言っても過言ではないくらいに。
「……あぁっ、何でこんな事話しちまったんだ!」
今になって恥ずかしさが襲ってきたのか、涼は枕に顔をうずめて悶えていた。たまには、こういうのも良いよな。こうして眠れぬ夜は更けていった。