コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

それぞれの想い【47】 ( No.122 )
日時: 2015/04/25 16:22
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)

「すまんねぇ。準一くんのお隣りさんの大谷さんって居るだろ? あの人が鍋に火をかけっぱなしで出掛けたもんだから」

「はぁ……」

 戻ってきた俺は、アパート跡地にて大家さんに話しをしてみたのだが、どうにも絶望的だった。もともと古いアパートで大家さんの趣味的な要素で部屋を貸していたため、建て直しの予定はないらしい。なんとかしてもらいたいのだが、入居の際に無理を言って借りてる手前もあって強気には出れない。

「まぁ、本当に申し訳ないんだけど、準一くんは実家もある訳だし。ここは家に戻ったらどうかな?」

 無精ひげを撫でながら、しぶい表情をする大家さんに俺は首を縦に振る事しかできなかった。


 ***


 朝早くから行動していたというのに、気がつけば空は茜色に染まっていた。母さんには帰らないと言ってしまった以上、戻る訳にはいかない。
 かと言って、涼に迷惑をかけ続ける訳にもいかない。これは困ったな。

「準くん、お姉ちゃんの所じゃダメなの? 私、お姉ちゃんの所が良い」

「ダメだ。今、先輩の所に行く訳にいかない」

 ユキは先輩と姉妹(確証がある訳ではないが)だから良いかもしれないが、一人暮らしの女性の家に泊まる訳にはいかない。大体、家がなくなったから泊めて下さいって、俺はヒモじゃないんだから。
 それに、先輩の告白を待たせてるのに今そんな事を言うのは卑怯だ。自惚れかもしれないが、俺が頼めば先輩は間違いなく承諾してくれるだろう。
 けど、それじゃダメなんだ。先輩の優しい気持ちを利用したくなんてない。
 どうしたものかと頭を捻らせていると、聞き覚えのある声が背後からかかった。

「なにしてんの? 準一?」

 振り返れば、見慣れた幼なじみの渚の顔があった。逆にこっちがなにしているのか尋ねたいくらいだ。

「……ちょっと、人生について考えてたんだ」

「うわ……準くん、ごまかすの下手過ぎだよ」

 とっさに思いついた言い訳を言ってみたが、ユキに呆れ顔でツッコミを入れられた。どうも俺はアドリブが上手くないな。
 挙動不審な俺を渚は訝しむような表情で見つめていた。

「……そんな事より、渚はどうしてここに?」

「私は、準一が具合悪くて休んだって山部くんから聞いたから。お見舞いに来たんだよ」

 そう言って渚は、エコバックに入った果物やら、夕飯の食材を見せてくる。具合悪くて学校休んだってのに、外で考え込んでたら不思議に思うよな。

「そ、それはありがたいな! せっかくだし、今日は渚の家に行って食べて良いか?」

「……え? それは構わないけど、寝てなくて大丈夫なの? それに、準一の家で作った方がいいんじゃない?」

「いや、今日は渚の家で食べたいんだ」

 家が火事でなくなったなんて知られたら渚は心配して「家に住みなよ」とか言い出しかねないしな。
 近所だし遅かれ早かれ知られてしまうとは思うが、それでも渚に心配はかけたくない。

「……そっか、準一は家に来たいんだ。ふふっ、じゃあ行こ?」

「あ、あぁ」

 そう言って、夕日に照らされながら嬉しそうに少しはにかんだ渚の笑顔が不覚にも可愛いと思ってしまった。俺はそのまま腕を引かれて渚の家に向かった。