コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- それぞれの想い【48】 ( No.123 )
- 日時: 2015/04/25 16:23
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)
なんだか久しぶりの家族の団らん……と言っても、本当の家族ではなく、渚の家族なんだが。広いダイニングテーブルの上には色とりどりの料理が並ぶ。
それを囲むようにして、楓さん、渚、俺と席に座っている。ちなみに、渚のお父さんは長期出張中のため不在である。
「はい、準一にはお粥ね」
「……お、おう」
そう言って、渚から渡されたお椀には綺麗な白が映える。一応、病人という設定だからしかたないのだが、このごちそうを前に食べられずお預け状態とは……。いや、別に文句があるわけじゃない。ただ、俺も少しでいいから普通の食事もしたいなと思うわけで。
まぁ、嘘ついてしまった手前、これは甘んじて受け入れるしかないな。
「うふふ、やっぱり準一くんが居ると賑やかね」
楓さんは柔らかな笑みを浮かべながら、優しい声音で呟く。
小さい頃からお世話になっている楓さんは、俺にとって第二のお母さんのようなもので、楓さんの笑顔を見るとなんだか自分の心が温かくなる。
「楓さん、ありがとうございます。夕飯ごちそうになってしまって」
「いいのよ。準一くんが来てくれると渚も喜ぶし、私も嬉しいわ」
俺がそう言うと、楓さんは穏やかな口調で答えた。
「お、お母さん! 何言ってるの!? 私は別に——」
「はいはい。あんまり素直じゃないと、準一くんに嫌われちゃうわよ」
楓さんにそう言われて、渚は口をつぐんでしまう。
やっぱり渚も楓さんには敵わないな。まぁ、渚としても仲が良いといっても昔からの付き合いだからだろうし、そんな風に誤解されるのは不本意だろう。涼は意味深な事を言っていたけど、やっぱりそれはないんじゃないだろうか。俺が思っている大事だと思う気持ちと、渚が思っている気持ちは変わらないように思う。
そのまま穏やかな食事の時間は過ぎていった。ユキはその光景を見ながら「私も食べたい」と俺の隣りで終始呟いていたが、当然食べられる訳もなく、楓さんと渚の前でユキと話す訳にもいかずで、結果的に無視する形になってしまったので少し気が引けた。
***
「本当に帰るの? 泊まってけば?」
「いやいや、悪いし」
夕食が終わったあと片付けを手伝って、そそくさと帰る準備をする俺に渚が不満気に問いかけてきた。そりゃ、今現在家がない俺としてはありがたい申し出ではあるのだが、前回のような羞恥プレイは避けたい。よほどのプレイボーイか趣向が違う方ならいざ知らず、俺にはハッキリ言って心臓に良くない。それに、涼の家には許可をもらっているのでわざわざ渚の家に泊まらなくちゃいけない理由もない。
「……そっか、じゃあ家までおくるよ」
「……い、いや、送らなくていいよ。すぐそこだし」
「別に、すぐそこだからいいじゃない」
「うっ……。そ、それに、帰りが危ないじゃないか」
この展開はまずい。家まで来られたら家がないのがばれてしまう訳で、そうなると渚に心配をかけてしまう。嘘をつくのがお世辞にも上手くない俺は案の定、渚に不信感たっぷりのジト目で見られている。うぅ、どうすりゃいいんだ。
「準くん、観念して渚さんに正直に言えばいいんじゃない」
隣りで一部始終を見ていたユキは、やや投げやりにそう言う。
どうやら、夕飯の恨みは深いらしい。でもそれは俺のせいじゃない気がするんだが。
「……また何か隠してる?」
「か、隠してる事なんて、何もないぞ」
我ながらひどい。これじゃ隠してますって言っているようなものだ。つくづく隠し事は向いてないな。そんな俺を見て渚は意を決したように口を開く。
「やっぱり送る。何もないなら問題ないでしょ」
渚の目からは強い決意を感じる。これは本当に観念するしかなさそうだ。