コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 過去の想いと今の願い【ユキ編】 ( No.130 )
- 日時: 2014/09/25 19:43
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /B3FYnni)
少しだけ私の話をしてみたい。誰に聞かせる訳でもない、私だけの話を。
————私は思い出してしまったから。
思い出さずにいられたらどんなに楽だったのだろう。準くんと出会ったのはもう十年も前にさかのぼる。当時、外に出るのが好きで活発だった私とは対照的に私の姉、綾瀬 紗織(あやせ さおり)は家の中で本を読むのが好きな内気な女の子だった。
私が外に行こうと誘っても返ってくる言葉は「私は本を読みたいから」の一点張りで、自分がこうと決めたら一直線なところがあり、苦労したのを覚えている。
そんな時、私は近所の公園でとても活発な男の子と出会った。その男の子こそ、今の準くんだ。はじける様な明るい笑顔の準くんと遊ぶうちに、私は淡い想いを抱くようになった。今は以前のような明るさはなくなってしまったけど、それも仕方ないのかもしれない。
準くんは大好きだったお父さんが居なくなってしまった日から、その想いをずっと引きずっている感じだ。準くんから直接聞いた訳じゃないけど、この間、準くんの実家に帰った時、準くんと準くんのお母さんがそんな話をしていた。うん、少し話がそれたね。
そんな日々が続いたある冬の日の事だった。
私のお願いが通じたのか、それとも一回くらいは行ってあげないと、と思ってくれたのかはわからないが、お姉ちゃんが一緒に外へ行ってくれると言ってくれたのだ。今思い返せば、お母さんにたまには外で遊びなさいと言われたのかもしれない。
私は嬉しかった。「大好きなお姉ちゃんが一緒に遊びに行ってくれる」そう、はしゃいでいた。
私たち姉妹はよく似ている。性格こそ違うが容姿に関しては瓜二つ、まるで鏡写しのように、どちらがどちらなのか見分けつかないほどに。
私がそのまま成長していたらどうなっていたかはわからないが、少なくとも当時は身内でなければ見分けは困難だったと思う。だからだろうか。準くんは私とお姉ちゃんの見分けがつかなかったみたい。それとも、あまり見ていなかったのかなぁ。
実際、三人で会う事はほとんどなかったから仕方ないのかもね。それと、これは最近わかった事なんだけど、お姉ちゃんは準くんと初めて会ってからしばらくして、私のワンピースを着て準くんに会いに行っていたようだ。
お姉ちゃんがやけに嬉しそうにして帰ってきた日があったけど、その意味がようやくわかった。内気なお姉ちゃんは、私になりすまして準くんとお話してたみたい。
多分、自分から話したくても話せなくて、考えた結果がそれだったんだろうなぁ。準くんとは私の方が仲良かったしね。姉妹そろって同じ人を好きになるっていうのも面白いよね。
そうして、一緒に遊ぶうちに私は準くんに淡い想いを重ねていき、準くんにこの気持ちを伝えよう! って決意した時、事件は起こった。
いつもの公園からの帰り道、私は事故に遭った。
それは本当に一瞬の出来事で、何も考える暇がないほどに。
残ったのは、ひとりぼっちで暗闇の中冷たい床の上にいるような、どうしようもないほどの孤独感と恐怖。そして、自分が自分でなくなる感覚だった。
気が付くと、私は空の上から私を見下ろしていた。最初は何が起きたのかわからなかった。でも、お父さんやお母さん、お姉ちゃんの悲しむ顔を見て幼いながらに理解した。
私は、もう、お父さんやお母さん、お姉ちゃんたちの所へは戻れないんだって。
お姉ちゃんはショックで私との記憶だけがなくなっていた。まるで私は最初から存在してなかったかのように。お父さんやお母さんも、お姉ちゃんにこれ以上ショックをあたえないためにも私が居なくなってしまった事は隠していくつもりのようだった。
それで良いと思った。私のせいでお姉ちゃんが悲しみに暮れてしまうよりも、私の事を忘れてお姉ちゃんが笑顔でいられるのなら。
私は準くんがこの町を出てったあと、ずっと深い眠りにつくように空を漂っていた。
その前に、なんとかっていう人が私を道案内してくれるって言ってくれた事もあったけど、私は断った。わがままかもしれないけど、最後に準くんに会いたかったから。そのかわり、私の願いが叶ったら私はあるべき場所へ行く事を約束した。
フラフラと風に揺れるたんぽぽの綿毛のように辿り着いた場所はあのアパートだった。私の目が覚めた時には月日はかなり流れていたようで……と言っても、それに気付いたのは結構あとなんだけど。
アパートの住人も全然知らない人で、その上、私の記憶もなくなっていて、どうしてここにいるのかさえわからないまま、夜な夜なアパートの一室に出てきては幽霊だ、お化けだと言われていた。
そんな時、偶然なのか運命なのか、準くんと再会する事ができた。大きくなってしまって外見は変わってしまっていたけど、記憶がなくても本能的に私が会いたかった人だと理解した。——本当に嬉しかった。他愛のない会話すらとても楽しくて、幸せだった。
でも、お姉ちゃんに再会して全てを思い出した私は、同時に自分自身にもあまり時間がない事にも気付いてしまった。本来、私はここに留まり続ける事はできない。それに、私の願い、準くんに最後に会いたいという願いは既に叶ったのだから。
その証拠に、前はなんともなかった身体が鉛のように重い。準くんには見せないようにしてるけど、そろそろ限界かもしれない。
——だから私は願うんだ。準くんが幸せでありますように。だから私は願うんだ。お姉ちゃんが幸せでありますように。だから私は願うんだ……みんなが幸せでありますように。