コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 出せない答え【50】 ( No.131 )
- 日時: 2014/10/01 01:44
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /..WfHud)
——暗闇の中でポツンと佇む先輩はとても寂しそうに瞳が揺れている。足下には落としてしまったトートバックから食材が飛び出してしまって、地面に散乱してしまっていた。
先輩のあの様子を見るに、渚の告白を聞いてしまったのだろう。
タイミング……の問題なんだろうか。それとも、俺が先輩に対して煮え切れない態度を取っていたのがいけなかったのか。涼が言うように、俺がもう少し渚の事をちゃんと見ていたら渚の気持ちにも早く気付けたのかもしれない。だけど正解はわからないし、今更そんな事を考えてもどうしようもない。今考えることは——
「……綾瀬先輩、どうして準一の家に来てるんですか?」
俺が言葉を発するより先に、渚がやや不機嫌さが混じった口調で先輩に尋ねる。
「……そ、それは、き、清川くんが、今日は風邪で休みだと聞いて……それで……」
渚の強めの問いかけに、先輩は所々つかえながら申し訳なさそうに答える。
渚も本当はわかっているはずだとは思う。先輩は厚意で来てくれたのであって、他意はないし、先輩にあたっても仕方ないという事を。それでも、さっきの事で感情が高ぶってしまっているせいか止められないかもしれない。
「渚、先輩は俺の体調を心配してくれただけで——」
「なんで? なんで準一は先輩をかばうの? 大事な事は何一つ私には言ってくれないくせに……先輩には何でも話して、優しくして」
「ちがっ……それは誤解だって言ってるだろ。それに家が焼けた事は先輩にも——」
そう言ってしまってから、しまったと思った。なるべくなら先輩にも知られたくない事だっただけに。これ以上、誰かに迷惑や心配をかけたくない。そんな俺の思いに反して空回りしていく。
「……き、清川くん……お家が焼けたって……?」
先輩は信じられないといった表情で俺に問いかける。迂闊だった……。本当なら渚にも先輩にもこの事は言わないで、知られる前になんとかするはずだったのに。
「……この間、火事で焼けてしまったんです。でも、今は友達の家に泊まらせてもらってますから大丈夫です」
「……っ! 全然大丈夫じゃありません!」
俺が答えると先輩は少し怒ったようにそう言うと、駆け寄ってきて俺の体に抱きついた。
正面から勢いよく抱きつかれて、反射的にバランスを崩さないように抱き留める。その瞬間、前に先輩の家で抱きつかれた時同様、先輩の甘い香りがふわりと鼻腔をくすぐった。
「……私、清川くんが居なくなったら生きていけません……」
「ちょっ! せ、先輩!」
ひとつ……ひとつだけ、前回と決定的に違う事がある。
それは、渚が見ている事。俺は恐る恐る渚が居る方へと首だけ動かして視線をやる。
「……準一の……バカ……準一のバカっ! もう……もう知らない! 勝手にすれば!」
目に大粒の涙を溜めて、放たれた渚の言葉は閑静な住宅街に響き渡る。それと同時にここから逃げるように駆け出していってしまった。
「渚っ! ちょっと待て!」
「行っちゃ嫌です! 行っちゃ……嫌ですよ」
追いかけようとした瞬間、先輩の細い腕できつく抱きしめられて動く事ができなかった。いや、正確に言えば、無理にでも振りほどけば動けたけれど、先輩の華奢な体が壊れてしまいそうで俺にはできなかった。