コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 出せない答え【51】 ( No.134 )
- 日時: 2015/01/17 22:37
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: 9AGFDH0G)
——渚と先輩を傷付けてしまったあの後、俺は涼の家に戻る事もできずに夜も更けた公園で、ひとりブランコに座りながらどうしたらいいのか考えていた。
ちなみに先輩は俺の服の裾を掴み離してくれなかったが、なんとか説得して解放してもらった。先輩に告白されて、渚に告白されて、本来ならばこんな経験は一生にあるかないかわからないくらい稀で幸せな事だろう。例えるなら、宝くじの一等が続けて当たったかのような幸運。どちらも俺にはもったいないくらいの相手で……いや、むしろ相手が俺なんかでいいのだろうか? 渚も先輩も放っておいても自然に相手がよってくるレベルだ。
「……はぁ、なるべく迷惑かけないように黙っていたのが裏目にでたのか」
そう嘆息混じりにひとり呟くも、誰が聞いてる訳もなく——いや、ユキが居たな。
視線だけを動かしてユキの方を見ると、ユキは横で複雑な表情をしながら俺を見ていた。当然といえば当然なのだが、先ほどの俺たちのやり取りは全部ユキに見られていた訳で……なんかこう、見られてはいけないものを見られてしまったような気持ちがある。でも、一部始終を見ていたユキに相談というか聞いてみるのもいいかもしれないな。
「……なぁ、ユキはさ、どうしたらいいと思う?」
「私に聞かれても困るよ……私がこうした方がいいって言うより、準くんがどうしたいかっていうのが重要だと思うんだけどな」
……確かに、もっともな意見だ。俺の問題なのだから俺が考えて決断するのは当然な事。
それは誰かに言われたからではなく、俺がどうしたいかが重要で、ましてや、真剣な気持ちをぶつけてきた二人にたいして、俺が真剣に考えて出した答えじゃなきゃ失礼というものだ。安易に誰かに相談してみようなんてダメだよな。まずは、俺がちゃんと考えないと……それにしても、ユキに言われてから気付くなんて、俺もまだまだだな。
「うーん、準くんはさ、お姉ちゃんと渚さん、どっちがいいの?」
悩む俺にユキはそう問いかけてくる。
正直言って、それがわかっていれば苦労はない。わからないから悩んでいるのであって、そもそも俺は恋愛とは無縁な生活を送ってきていたせいか、いまいち実感がないというか、ドキドキと人を好きになるっていうのは別物というか。
うーん、ダメだな。このまま考えてても、思考の無限ループにハマりそうだ。
「……私としては、お姉ちゃんを見てあげてほしいかな。準くんがいれば、安心だし」
「……先輩……か」
先輩、俺の初恋の相手。なんでもできるのに、どこか危なっかしくて、つい手を伸ばしたくなるような、そんな人。……なんでもではないか。運動は苦手みたいだったし、方向音痴だしな。そう考え直して、笑ってしまう。ユキとしては、身内である姉を応援したいのだろう。でも、もし先輩と付き合ったとしたら、渚はどうなる? 小さい時からずっと俺を支えてくれた渚の幸せを俺は一番に願っていた。
独りよがりで、傲慢な考えかもしれないが、渚の幸せを誰よりも願っている。
折り畳みの財布から、年月が経ってクシャクシャになった折り紙を出す。星形になっているこれは、小さい頃、父さんが居なくなった時に渚の家に行ってもらったもの。
願いが叶うなんて言われてずっと大事にしていた。今にして思えば、本当は願いより、渚のその気持ちが嬉しかった。いつも寄り添うように側に居てくれた渚。
「…………」
出せない答えに、冬の冷たい風が責めるように俺の体を吹き付けていった。