コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 素直な気持ち【渚編】 ( No.135 )
- 日時: 2014/10/21 20:42
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /6p31nq7)
「はぁ…………最悪だ。私」
横になったまま、ベットの上で枕に顔をうずめる様にして盛大な溜め息をつく。
準一と別れてから家に帰ってきて、なんであんな事を言ってしまったんだろう? という後悔の念が押し寄せてきて、私の心を支配する。
「……本当、なんであんな事言っちゃったんだろう?」
いつもの私なら、あの場面でも我慢してあんなに取り乱す事もなかったと思う。
やっぱり、綾瀬先輩……なのかな? あの人と出会ってから私の心は騒ぎ出している気がする。それは、私の意思とは関係なくやってきて、準一が綾瀬先輩に優しくする度に感情のコントロールがきかなくなる。 綾瀬先輩にまで、やつあたりしちゃって……本当、最悪だ私。
「……やっぱり、私より、綾瀬先輩の方がいいのかな」
そう呟いて、泣きそうになる。
自分で言ったくせに、それを認めたくない私がいる。
だって、告白だってもっと、雰囲気が良い場所で、準一に好きになってもらってから、昔とは違うんだよって、ただの幼なじみじゃないんだって認めさせて、なのに——
「全部台無しだよ……バカ……」
その言葉と一緒に、我慢の限界だった涙が零れ落ちて頬を伝う。
バカなのは私だ。もっと素直に好きって言えば良かった。もっと早くに好きって言えば良かった。もっと……もっと、準一のそばに……居たいよ。
——トントン
不意に部屋に響き渡るノックの音で我に返る。
私は慌てて涙を拭いて、居住まいを正す。泣いてるところをお母さんに見られたら、余計な心配をかけてしまう。一応、鏡で軽くチェックしてから扉を開けた。
「なにかあったの? 準一くんを送って、帰ってきてから様子が変だったから」
そう言って、お母さんは心配そうな声音で尋ねてくる。さすがお母さん。上手く隠したつもりだったけど、顔を見るなり一発で見抜かれてしまった。
「どうしてわかったの?」
「そりゃ、渚の事は生まれた時から見てるもの。顔を見ればそれくらいわかるわ。それに、不機嫌になる時はきまって準一くん絡みでしょうに」
……うっ、私って、そんなに準一の事で不機嫌になってたかな。
でもそれは、準一が鈍いというか、こっちの考えに気付いてくれない事が多いからであって、決して私がいつも準一絡みで不機嫌なわけじゃない……と思う。自信ないけど。
「さては、準一くんにフラれたとか?」
お母さんは少し冗談っぽく笑って私にそう問いかける。
お母さんは、少し前まで私と準一は付き合っているんだと思ってたのだから仕方ないんだけど、実際は付き合ってもいないし、もう既にフラれたようなものなんだよね。
あぁ、告白なんてしなきゃ良かったな……そうしたら、準一が綾瀬先輩と付き合っても、いつも通り、仲の良い幼なじみの関係で居られたのになぁ。
込み上げてくる感情をぎりぎりの所で抑える。お母さんの前で泣いちゃだめだ。
「渚……」
お母さんが呟いた瞬間、不意に柔らかな感覚に包まれる。
俯いていた顔をあげると、慈しむような優しい表情のお母さんに抱き締められていた。
「……お母さん?」
「……渚、泣きたい時は我慢しなくていいのよ? たくさん泣いて、嫌な事は涙と一緒に流しちゃいなさい。そうしたら、また明日から頑張れるようになるから、ね」
「……うぅっ……うん……ご……めん」
その日、私はたくさん泣いた。
決壊したダムのようにとめどなく流れる涙は、お母さんの優しさに包まれて、不安な気持ちとともに滲んで消えていった。