コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 始まりの場所【3】 ( No.14 )
- 日時: 2014/09/30 23:51
- 名前: ゴマ猫 (ID: /..WfHud)
——ポツリ。
何かが頬に落ちてきた感覚がして、目を閉じたまま意識が浮上する。
頬につたう感覚からして水だろうか? いくらボロい家とはいえ、雨漏りなんてしてないだろう。とりあえず確認しないと。そう思い、重たいまぶたを開けてゆっくりと周りを見渡す。
——飛び込んできた光景は、目を疑いたくなるものだった。
知らない女の子が俺の顔のすぐ目の前にあり、雨漏りかと思った水滴はその子の涙だった。
「……良かったぁ〜、やっと会えたね」
「…………」
セミロングくらいの綺麗な黒髪に、吸い込まれるような瞳、少しおっとりとした雰囲気、華奢な身体にフリルがついた花柄の白いワンピースがよく似合う。こう、なんて言うか……可愛いの一言だ。
……って、そうじゃないだろ俺!!
深夜に不法侵入とはいい度胸じゃないか。ここはささっと不審者を追っ払うとしよう。
「……あの、ここ俺の家なんですけど?」
「うん、知ってるよ」
俺の問いかけに、まるで太陽のようなまぶしい笑顔で答える女の子。知ってて入ったんなら、なおさら悪い……ってか俺はこの子の事なんて全然知らないんだが。見た事も会った事もない。
「……俺は君の事なんて全然知らないし、見た事もないよ。それにどうやって家の中に入ったの?」
「うーんと……」
女の子はあごに人差し指をあてて、考えるような仕草をした。しばらく考えた後、何かひらめいたような顔をする。
「わかった!!」
「……で、どこから入ったの?」
「わからない」
「どっちだよ!!」
言ってる事がむちゃくちゃだ。
もしかして俺の事をおちょくってるんだろうか? しかし、謎の女の子は首を横にブンブンと振る。
「違う。わからない事がわかったの」
「…………」
ややこしい。
つまり、よくわからないという訳か。これはますます怪しいじゃないか。
「とにかく、もう帰ってくれるかな? 君もこんな夜遅くに出歩いてるとご両親が心配するよ」
もっともらしい事を言ったが、実はただ面倒くさいだけだ。 寝たい、1秒でも早く寝たい。
「帰るって……どこへ?」
謎の女の子は、よくわからないといった表情をしながら首を傾げる。
「家だよ。君にも自分の家はあるでしょ?」
「……わからない」
今度はやや沈んだ表情でそう言った。どこから来たかもわからない、家もわからない。これじゃお手上げ状態だ。
「……とにかく、出てってくれ。俺は不審者を家に泊めるほど優しくない」
今まで俺がベッドの上で、謎の女の子がベッドの近くの床に座って話していたが、これ以上話していてもらちがあかない。俺は女の子の手を引っ張ると玄関へと連れていく。
「どこか行くの?」
俺に手をひかれて、きょとんとした表情で謎の女の子は問いかける。
「帰るんだよ。もちろん1人で帰るんだよ?」
「……嫌」
間髪入れずに拒否。困った不審者さんだ。
「嫌じゃなくて、ちゃんと家帰らなきゃ」
俺は少し声のトーンを落として、小さな子供に言い聞かせるように話す。
「……でも、嫌」
——仕方ない。
ここは強制退去してもらうしかないか。そう思い、ぐいぐいと女の子の背中を押しながら玄関から押し出した。
「嫌なの!!」
「はいはい、ワガママ言わないの。ちゃんとご両親に連絡取るんだよ」
そのまま玄関の扉をバタンと閉めた。
しばらく覗き穴から様子を見ていたが、さすがに諦めたのか、女の子は帰っていった。
「……ふぅ、さて寝るか」
ふたたびベッドに寝ころぶと、意識はすぐに落ちていった。