コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 大切な君のために今できる事【53】 ( No.141 )
- 日時: 2015/01/17 22:53
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: 9AGFDH0G)
「……それで大事な話って何かな?」
渚が風見鶏のバイトが終わるのを待って、俺たちは昔よく遊んだ公園に来ていた。既に日はとっぷりと暮れており、公園内に誰もいない。
何の変哲もないどこにでもある公園。子供の頃は広かった公園が少し小さくなったように感じるのは俺が大きくなったからだろう。ここには最近も来ている。渚との告白があったあの夜、どうしたものかと公園のブランコに座りながら悩んでいた。
不思議なもので、二つ並んだブランコに今は渚と並んで座っている。
「あぁ、この間の事なんだが——」
「あぁっ! あれはもう気にしないで! その、私も何であんな事言っちゃったんだろうって後で後悔して、それで——」
捲し立てる様に俺の言葉を遮って話す渚。
その瞳はどこか不安が滲んでいて、話していないとどうにかなってしまうんじゃないかと思うくらいだ。でも、だからこそ、渚はにはちゃんと伝えたい。大切な人だから。
「聞いてくれ渚。……俺、渚に告白されて、凄く驚いた。正直に話すけど、その前に先輩にも告白されて、頭の中いっぱいいっぱいで……それに自分の気持ちがよくわかんなくてさ」
一つ一つ、真摯な思いを乗せて言葉を紡いでいく。
そんな真剣さが伝わったのか、渚は相槌を打つだけで途中で言葉を挟まない。
前にユキに言われた言葉『どうしたらいいか』じゃなく『俺がどうしたいか』誰かに言われて言うのではなく、自分だけの自分にしか言えない言葉。
「でも嬉しかった。それで俺、渚の事、知っているようで全然知らないんだって思った。きっと、まだまだ俺の知らない事があるんだろうし。昔、渚が俺を助けてくれたように渚が悩んでたり苦しんでたら俺が力になりたいって思う」
ただ真っ直ぐに、まっさらなページに素直な思いを書き込むように。
「……だから、ちゃんと向き合いたいって思った。その、付き合うとかそういう前に、もっとお互いを知れたらって」
そこまで言って、ふぅと息を吐く。
思った以上に緊張しているようで、寒いというのに気が付くと手には汗が滲んでいた。
先輩に告白されて、渚に告白されて、俺の気持ちはどうしたらいいのか『わからない』という思いが強かった。『わからない』のなら『わかる』ようにすればいい。
ただ、それは俺がひとりで悶々と考えていても答えが出ない訳で。なら、見方を変えて接してみればいい。それで答えが出れば、それが俺の答えだと思う。
ユキが居なくなる事を知って、ユキのためにできる事を考えた。自分自身を見つめ直した時に出た考え、その一つがこれだ。俺への心配をなくして、少しでもユキが安心して行けるように。渚や先輩の気持ちに真摯に応えられるように。
「……えぇーっと、つまり、前向きに考えても……いいって事かな?」
まだよく理解できないような少し呆けた表情で渚は問いかけてくる。
「そう、だな。でも、渚がそれじゃ嫌だって言うなら無理はしなくていい。これは俺のわがままだし、凄い自分勝手な事を言ってるのは自覚しているから」
そう、これは俺のわがまま。
多分、俺が第三者の立場なら「都合の良い事言ってんなコイツ」とか思うだろう。だからこそ、全部正直に話して、納得してもらいたい。渚の事が大切だからこそ、今は下手な嘘や隠し事はしたくない。すると、渚は俺の言葉にふるふると首を横に振った。
「……嫌じゃない、嬉しい。私、……フラれたのかと思っていたから。もう、話してくれないのかもって思って……」
そう言って、渚の瞳から一粒の涙が零れ落ちた。
でもその表情は悲しみに彩られたものでなく、安堵したかのような柔らかな笑み。
この笑顔を崩させたくない、いつまでも渚には笑っていてほしい。
手を伸ばして、隣りに居る渚の頭に手を置いてから優しく頭を撫でる。俺の気持ちが伝わるように。まるで絹糸のように柔らかい渚の髪が、撫でる度に何度も何度も俺の手をくすぐるようにすり抜けていく。
「そんな訳ないだろ。たとえフっても俺は渚を避けたりはしないよ。渚が居なければ今の俺は居ないと思うから……それくらい渚は俺の恩人だ」
「……ずるいなぁ……準一は本当にずるいよ。しかも、不意打ちとか……バカ」
幼い頃からあった渚に対する心の中にあった感謝。
こうしてちゃんと口に出して伝える事はなかった。積み上げてきたものを言葉という形にするだけで、少し前までのギクシャクとした空気は壊れ、二人の間に優しい時間が流れていった。