コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- すれ違う想い【渚編】 ( No.164 )
- 日時: 2015/03/15 23:15
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: mJV9X4jr)
——芽生ちゃんと別れ、家に帰ってからの私の胸は躍るように高鳴っていた。
準一とデート……二人っきりでデート。……デート、で良いんだよね? 自分自身に問いかけてから、さっきから何度目だろうと思うくらいに自然と頬が緩む。
「クリスマスデートだよ……しかも二人っきりだよ」
ベットに寝転がり枕に顔を埋めたまま、足をバタつかせながらひとり悶える。
はぁ、本当にこれは夢じゃないよね? それくらいフワフワした感覚だなぁ。ずっと思い描いていた光景が現実になろうとしている。想像するだけで温かい気持ちになって、顔が熱くなってくるのがわかった。私は変になっちゃったんじゃないかと思うくらい、さっきからずっとこんな感じだ。
「えへへ……今日は良い日だなぁ」
目を閉じれば準一の顔が浮かぶ。
近いようで遠い距離。手を伸ばせば届く距離なのに、勇気がなかった。何かを変える事で今の関係さえも壊れてしまったら。そう思うと、怖くて踏み込めない自分が居た。
いつからだろう? いつから私はこんなにも準一を好きになったんだろう? 傍に居るのが当たり前で、私が困ったときは「仕方ないな」とか言って助けてくれて。私の、私だけが知っている準一。優しくて、不器用で、素直じゃない。気付いた時には好きになってた。……うん、これが一番しっくりくるかも。
「準備、しちゃおうかな」
約束の時間まではまだまだあるけれど、はやる気持ちを抑えられずにクローゼットを開けて今日のデートの服を選ぶ事にした。
***
「お母さん、ちょっと出掛けてくるね」
何を着ていくか悩んでいたり、鏡の前で前髪を何度もチェックしたりと、そんな事をしていたらあっという間に時間が過ぎてしまった。慌ただしく部屋から出た私は、玄関からリビングに居るお母さんに声を掛ける。遅い時間帯だし、心配させたらよくないもんね。
「あら、こんな時間から出掛けるの? ——ははーん、もしかして準一くん?」
リビングから出てきたお母さんは、そう言ってニヤニヤしながら私に尋ねてきた。
そう言えば、あの日以来お母さんに準一との事を話していなかった。お母さんもお母さんで私を気遣ってか、その話題には触れてこなかったしなぁ。あの時は大泣きして……って、今思い出すと恥ずかしい。
「……う、うん。今日はちょっと遅くなる、かも」
「うんうん、仲良き事は美しきかな。あっ、でも、あんまり遅くなるようなら家に連れてきなさいな。その方が私も安心だし」
「どうかな? 準一、家には来ないって言ってたし」
「あぁ〜もしかして、お母さんお邪魔だった? なんだったら出かけてくるわよ? 2〜3時間くらい。それでも足りなかったら途中で連絡くれれば——」
「一体、お母さんは何の心配してるのっ!?」
***
お母さんの冷やかしを受けながら家を出て、待ち合わせ場所に着いたのは約束の30分前。
今もまだ降り続ける雪で見慣れた街並みは真っ白に染まっていた。さらにホワイトクリスマスを演出するかのように駅前には煌びやかなイルミネーションが輝いていて、街全体がとても幻想的な雰囲気を醸し出している。
「……うん、まだ準一は来てないみたい」
ほっと胸をなでおろす。クローズ作業もあるから、そうそう早くは来れないとは思っていたけど、それでも大事なデートの日に遅刻なんてできない。
それに、一度やってみたかったんだよね。「待った?」「ううん、今来たとこ」っというお約束な展開。
ドラマとかで見てて憧れてたけど、実際はどんな感じなんだろう? でも、相手が準一ならどんな事をしてもきっと楽しいし、ドキドキするんだろうなぁ。
「新谷さん?」
「ひゃう! ……って、山部くん?」
背後から急にかけられた声に驚いて変な声が出てしまう。
誰かと思い、振り向けばそこに居たのは山部くんだった。どうやら駅の方から来たみたいだけど、どこかへ行った帰りなのかな? よく準一と3人で会ったり遊ぶことはあっても、意外にも2人で遊んだりする事は中々なかったりする。
「あぁ、驚かせてごめん。新谷さん誰かと待ち合わせ?」
「う、うん。準一と待ち合わせしてて」
私がそう言うと、山部くんは柔らかい笑みを浮かべる。
今まで見た事がないような優しい顔だなぁ。いつも準一とふざけている時以外はクールなイメージだからちょっと意外かも。って、そんな事考えてたら失礼だね。
「そっか、新谷さんが楽しそうなら良かった」
「う、うん? あ、ありがとう」
山部くんは右手をひらひらと振ると「また学校で」と言い残して帰っていった。
何だったんだろう? 今日の山部くん、いつもと雰囲気が違ったのが気になるけど、何も言ってこなかったから大した事ではないのかな。
また学校で、か。でも、もう冬休み入ってるから山部くんに会うのは来年になる。
来年……来年になったら、準一との関係も少しは進展しているのかな? それとも————
ふと気付けば、いつの間にか待ち合わせの時間になっていた。