コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

始まりの場所【5】 ( No.21 )
日時: 2015/04/25 15:22
名前: ゴマ猫 (ID: RnkmdEze)

 ——やれやれ。
 涼に言われたせいか、どうにも昨日の事が気になってしまい仕事に集中できないな。……あの子、ちゃんと家に帰ったよな? 放課後、学校が終わると俺はバイト先のカフェにて友人の涼に言われた事を考えていた。別に心配してる訳じゃないが、今考えると確かに放置して何かあったら夢見が悪いのも事実だ。

「こらっ。ボーっとしてないで、さっさと食器拭いてよね」

「痛っ、なにすんだ?」

 レジの前で考え事をしていると、幼なじみの渚に背中を軽く叩かれた。

「なにすんだ? じゃないよ。いくら暇だからってサボんないの」

 ……うっ、確かにその通りだ。俺とした事が渚に言われるなんて。今日の店内はガラガラで、空席も目立つ。いつもなら夕方のこの時間は忙しく、余計な事を考えている暇なんてないのだが。

「悪かったよ」

「うん、わかればよろしい」

 俺が謝ると、渚は目をつむりながら小さく上下に首を振り、そう言った。

「でも、準一が仕事中にボーっとするなんて珍しいね」

「あぁ、ちょっとな」

 渚の質問に俺は曖昧に返す。
 昨日の事を渚に話したりしたら、なにかと面倒な事が起きそうだしな。その後、集中して仕事をしていると時間はあっという間に過ぎていった。


 ***


「じゃ、準一お疲れ〜」

「あぁ、お疲れ」

 バイトが終わり、渚といつもの帰り道で別れると、俺は自宅近くにある牛丼屋に入り今晩の夕飯を買う。

 ——はっきり言って、料理なんて面倒だ。
 料理本なんて見る気もしないし、食材だって買う気もおきない。『できてる物を買う』これほど楽で時間も短縮できる事はない。
 ……まぁ、さすがに毎日牛丼ではあきるので気分で夕飯は変えているのだが。レジで会計を済ませて、足早に店を出る。中でも食べられるが、やはり家でゆっくり食べるのが良い。

「……今日は特盛りにしてしまった」

 家に着くと、さっそく袋から牛丼を取り出して食べはじめる。今日は気分的にちょっと贅沢な感じだ。(実際はご飯の量が多いだけなんだが)

「……ふぅ」

 食べ終わると急に睡魔が襲ってきて、俺はそのまま眠りに落ちてしまっていた。


 ***


 どのくらい眠ってしまったのだろう? 目が覚めると、そこには知らない人物が居た。いや、正確には知っている。俺の記憶に間違いがなければ、昨日俺の家に不法侵入した不審者さんだ。

「おはよう。よく眠ってたね」

「…………」

 暗闇を照らすかのような眩しい笑顔で謎の不審者さん(女の子)は俺にそう言った。
 とりあえず言いたい事はたくさんある。まず、おはようじゃねーよ。何で普通に俺の家に居るんだよ? ってかどこから入ってきてるの? 俺の家デカい穴とかあいてないよね?

「……何で、またここに居るんだ?」

「うーんと……わからない」

 またか。
 このやり取りは昨日もやったよな。チラッと時計に目をやると、午前2時。よく覚えてはいないが、昨日もこのくらいの時間だった気がする。
 さすがに2夜連続で同じような時間、同じ場所にあらわれるなんてちょっと変だ。こうなると家出や迷子も考えにくいんじゃないだろうか? 
 ——ん? そうかわかった。これは夢だ。2日も続けてこんな変な夢見るなんて、疲れてるんだろうか。
しかし、そうとわかれば。

「寝る」

「ふぇ?」

 俺はそう一言呟くと、布団に潜り込む。夢なら気にする事はない俺の自由だ。

「せっかく起きたんだからもう少しお話ししようよ〜」

 少し泣きそうな声が、寝ている俺の後ろから聞こえてくる。だが、夢の住人に構っている暇はない。
 夢の中だけど、おやすみ。俺はそのまま深い眠りへと落ちていった。