コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 清川 準一【過去編】 ( No.35 )
- 日時: 2015/04/25 15:30
- 名前: ゴマ猫 (ID: RnkmdEze)
目覚めると、下の階から誰かがすすり泣くような声が聞こえてきた。僕は気になって、声の聞こえてきた方へと階段を降りて、リビングに行く。そこには椅子に座ったお母さんが両手で顔を隠すようにして俯きながら泣いていた。
「……お母さん? どうしたの?」
恐る恐る尋ねてみると、お母さんは真っ赤になった目をこすりながら僕に笑顔を見せた。それは、とても悲しい事があったのに無理してる時の笑顔。前にも一度見たことがあった。
「——準一、なんでもないのよ」
お母さんの言葉は普段と変わらないけど、何かあった事は僕にもわかった。だから、僕はお母さんに問いかける。
「悲しい事あった?」
僕の問いかけにお母さんは、笑顔のまま大粒の涙をポロポロと落としながらゆっくりと口を開いた。
「……お父さんね、しばらく帰ってこれなくなっちゃったんだ」
「……そうなんだ。じゃあ、いつ帰って来るのかな?」
「準一がもっと大きくなったら……かな」
お母さんのその言葉の意味が僕にはわからなかった。なんで昨日帰ってくると約束したお父さんが今日になっても帰ってこないんだろう? どうして僕が大きくなってから帰ってくるんだろう? そんな疑問が次から次へと脳裏に浮かんだ。
——けれど、確かな事はお父さんが今日も帰ってこないという事。僕はお母さんの事が気になりながらも、ほぼ無意識に家を飛び出した。
***
「準くん、今日はどうしたの? 元気ないね?」
「今日もお父さんに会えないんだ」
家を抜け出して来た場所は、近所に住んでいる渚ちゃんの家。渚ちゃんと僕は仲が良くて、何かある度にこうして渚ちゃんの家に来ていた。
「準くんのお家はお父さんがお仕事で忙しいってうちのお母さんも言ってた」
「……うん」
「そうだ!! 準くんに誕生日プレゼントあげるね」
そう言って渚ちゃんが机の引き出しから取り出し物は、折り紙で作った星。満面の笑みで差し出した渚ちゃんからプレゼントを受けとる。
「これは?」
「うーんとね、お星様にお願い事をすると、そのお願い事が叶うんだって。だから準くんのお願い事もきっと叶うよ」
「……ありがと、渚ちゃん」
大事にズボンのポケットにそれをしまう。僕はこの時から渚ちゃんにもらった折り紙のお星様に毎日お願い事をするようになった。
——早くお父さんが帰ってきますようにと。