コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- ユキと渚【10】 ( No.39 )
- 日時: 2015/04/25 15:34
- 名前: ゴマ猫 (ID: RnkmdEze)
「うわっ、何この大量の空容器は?」
久しぶりに渚が俺の自宅に来てキッチンのゴミ箱を見ての感想だった。捨てよう捨てようと思ってたまりにたまった弁当やらなんやらの空容器。……いや、でも、ちゃんと洗ってあるからゴミ屋敷みたいに変な臭いはしない。
「俺の1ヶ月分の食事だ」
「……準一、ちゃんと栄養バランスとか考えてる?」
呆れたと言わんばかりの表情で渚は俺に問いかける。
「俺にとって重要なのは栄養バランスじゃない。いかに安く、楽に食べられるかだ」
そう俺が言うと、渚はさらに呆れたといった表情になり深いため息をついた。別に何もおかしい事は言ってないんだがな。
「もう、本当にしょうがないな。そんな食生活してると将来病気になっちゃうんだからね?」
「そうならないように気をつけるよ」
「……本当かな?」
渚は疑いの眼差しで俺を見るが、俺は空返事で返す。栄養バランスがどうたらは別に大丈夫だろう。さすがに俺がじいさんになっても同じ食生活だったらまずいとは思うけどな。
***
包丁の小気味良い音とともに、味噌汁の良い匂いが俺の食欲を刺激する。ってか、渚のやつ気合い入ってる気がするのは気のせいか?
「準一、冷蔵庫の中の食材だとお味噌汁とオムライスくらいしかできないけど良いかな?」
「あぁ、食べられれば何でもいいぞ」
作ってもらえるだけでありがたい訳だし、メニューの希望なんて贅沢は言わない。
「……それじゃどうでも良いみたいじゃない」
渚は聞こえないくらいの小さな声で何か呟いた。なんだか知らないけど渚のやつ不機嫌になってるな。
「何か言ったか?」
「ううん、別に」
渚は一言だけそう言うと、俺の方に向けていた視線をキッチンのまな板の方に戻す。理由はよくわからないが、ご機嫌斜めらしい。——何だってんだ?
***
「はい、どうぞ準一」
テーブルの上に乗せられた、やや深い皿に入ったオムライスとお椀に入った味噌汁。どちらも完璧なくらい見栄えが良い。——ただ1つ気になるとすれば。
「渚、これは何だ?」
チキンライス(実際は材料が足りなくてケチャップライスだが)の上に小さなオムレツが乗っている。チキンライスが多すぎたのか、卵からはみ出してしまっている。やはりオムライスといえば、チキンライスを包み込むような卵のはずだ。——いや、別に文句がある訳じゃない。ただなんとなく気になっただけで。
「ふっふーん。これを準一にあげよう」
渚は得意気な表情で、俺に食器用の銀のナイフを手渡してきた。それをそのまま受け取るが、いまいち意味がわからない。オムライスなら普通はスプーンじゃないだろうか?
「……これでどうしろと言うんだ?」
「その卵に縦の切り込みを入れてみて」
俺は渚に言われるがまま、ナイフで卵の上から下へと縦の切り込みを入れてみる。すると、半熟の中身があふれ出してきて卵がチキンライスを包み込む。
その瞬間、俺は無意識に「おぉ!!」っと声を出していた。
「驚いた? 結構難しいんだよね〜これ」
渚は『凄いでしょう?』と今にも自慢してきそうな勢いで俺に顔を近づけてきた。……近い近い。
「あぁ、驚いた。驚いたからちょっと離れてくれ」
「あっ……ご、ごめん」
俺の言葉で我に返ったのか、渚は飛び跳ねるように後ろに後退。別に気にしないが、あまり近いのも対応に困る。
「……お、怒った?」
恐る恐るといった感じで渚は俺に問いかける。俺がしばし無言だったせいか勘違いされたみたいだ。
「何で? 飯作ってもらって感謝はしても、怒ったりする訳ないだろう」
「……そっか。そうだよね!! うんうん」
渚は自ら納得したかのように首を上下に振り、機嫌が元に戻っていた。何だかわからないが、渚の機嫌が戻ったのならよしとしよう。