コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- ユキと渚【12】 ( No.41 )
- 日時: 2014/10/01 01:04
- 名前: ゴマ猫 (ID: /..WfHud)
「ねぇ、起きてよ。お話ししようよ」
耳元で聞こえてきた少しスローテンポな声とともに俺の体が揺れる。重たいまぶたを開けると、部屋はまだ暗闇に包まれている。という事は、まだ朝じゃない。朝ならばこの部屋は眩しいくらい朝日が差し込んでくるからだ。
こんな夜中に俺を起こすなんて一体どこのどいつだ? 少々不機嫌になりながらも、声のした方向に視線をやると、そこには眩しいくらいの笑顔の女の子が俺の顔を覗き込んでいた。
「やっと起きた。えへへ、おはよ」
「…………」
——ユキだ。
すっかり失念していた。このユキという女の子は少し前から俺の部屋にあらわれるようになった謎の女の子。一体どこから来たのか? 何をしに来ているのか? 住所も、連絡先も、名前だって下の名前しかわからない。ただ1つはっきりしているのは、ユキは俺の事を知っていて、必ず夜中にあらわれるという事。この間は幽霊疑惑が浮かんでいたが、それは否定された。(あくまでも俺の中ではだが)
——それはともかく、今この状況は非常にまずい。今日は俺だけじゃなく、渚も居るのだ。幸いにも渚は熟睡しているようだけど、もしこんなとこ見られたら何言われるかわからない。
「……ユキ、悪いんだが今日は話しをする余裕がないんだ」
俺がそう言うと、ユキは不満気な表情で俺の顔を見つめてくる。
「どうして?」
ユキの子供のような無邪気な問いかけに(実際、容姿や言動はかなり幼いのだが)俺は言葉に詰まってしまう。こんな時、全て『あれ』で説明できたらいいのに。例えば、『今日は、あれがあれであれなんだよ』みたいな。……うん、自分で言っててなんだが、これじゃ何言ってるか全然伝わらないな。
——仕方ない。正直に話すとするか。
「今日は先客が居るんだ。だから話しはまた今度だ」
「……嫌」
ポツリと呟くようにユキは口を開く。
「仕方ないだろ? 今日は諦めてくれ」
「嫌。お話しできないのは嫌なの!!」
ユキは少し声を荒げてそう言うと、その瞬間、瞳から大粒の涙が落ちてくる。……なにも断ったくらいで、泣く事はないだろ。
「とにかく落ち着け。別に今日が最後って訳じゃないんだから、また今度で良いじゃないか」
俺はそう言いながら、ユキに近付いていき、両肩に手を置く。こうして近くまで来てあらためて見ると小さい。俺の胸あたりにユキの頭があるのだから、かなり小柄な方なんじゃないか?
「……じ、準一、な、何してるの?」
背後から聞こえてくる声に、とっても面倒くさい予感を感じながら振り向くと、そこには渚が立っていた。さっきユキが大声を出してしまったせいで、どうやら起こしてしまったらしい。真夜中に泣いてる女の子、その女の子の両肩に手を置く俺。
言い逃れできないくらいばっちり見られてしまった。……もしかしてこれ、終わった?