コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

ユキと渚【14】 ( No.47 )
日時: 2015/04/25 15:37
名前: ゴマ猫 (ID: RnkmdEze)

「じ、準一これ」

 人気のない校舎裏。渚に『話しがあるから』と言われて昼休みの時間を利用して来てみたら、A4サイズのノートがすっぽり入るくらいの大きさの茶色い紙袋を渡される。

「……なんだこれは?」

「……だから、この間の……ほら」

 もじもじしながらそう言う渚に、俺は記憶の底に封印しようとした黒歴史が呼び起こされる。
 ——そう数日前、ひょんな事から渚が家に泊まる事になり、ユキと鉢合わせしてしまった事。いや、正確に言えばユキの服とっと言ったところか。あの様子から察するに渚にはユキの姿は見えていなかった。
 思い出したくもない、これっぽっちも思い出したくもないが、壮絶な誤解をされたあげく、渚に幼なじみは『変態』というレッテル貼られてしまった。
つまり、この紙袋の中身は——おもむろに紙袋に貼られているテープを剥がして中身を確認すると、綺麗に折り畳まれたワンピース。想像通り、予想通りの物が入っていた。

「……渚、お前は誤解している。俺は断じて、そんな趣味はない」

「……大丈夫。ちゃんとわかって、理解しているつもりだから」

 ——ダメか。これはどうやら修復不可能らしい。

「……だ、大丈夫だよ。準一がどんな趣味でも、私は準一の味方だから」

「…………」

 ——あぁ、今すぐにでも誰も知らない土地に行って新しい暮らしを始めたい。渚の精一杯気を遣ったであろう優しい言葉に、俺の気持ちは絶望感で一杯になった。


 ***


 脱力感から紙袋を返す事も出来ないまま渚と別れ、校舎の廊下をひとり歩いていると、まるでタワーのように積み上がった本をフラフラしながら持ち歩いている人物を見かけた。

「……っと」

 その人物は顔が見えないくらい分厚い本を高く積み上げている。あれじゃ前が見えなくて危ないな。
 しばらく様子を見ていると、俺の心配した通りバランスを崩して転んでしまい、本が豪快に床に散らばってしまう。

「……あぁ、何やってんだあの人」

 別に気になった訳じゃないが、通りかかったついでに拾ってやるか。俺は少し小走りで近寄り、無言で本を拾う。

「あ、あの、ありがとうございます」

俺の顔を覗き込むように見てきたその人物は、とても綺麗な人だった。単純に『綺麗』という言葉がぴったりな人。澄んだ瞳に、綺麗なセミロングの黒髪、整っているのに、どこか幼さを残した顔。

「あ、あの……?」

「あぁ、いや、悪い」

俺がじろじろと見てしまったせいか、やや不安げに揺れる瞳。いけない、いけない。今日の俺はどうかしてるな。渚に変態だと思われたからだろうか? 慌てて本を拾い集め、彼女に渡す。

「ありがとうございます」

「別に気にするな。ってか、それ1人で持ってける量じゃないだろ?」

 ぺこりと丁寧なお辞儀をする彼女に、俺は思っていた疑問を投げかける。

「今日は他の委員さん達が忙しくて」

「図書委員なの?」

 俺の問いかけに頷く彼女。

「だとしても、1人でその量は無理だろ。どこまで運ぶのか知らないけど、そのうちに昼休み終わるぞ?」

 多分、図書室まで運ぶんだろうけど、この廊下から図書室は意外に遠い。

「大丈夫です。もう少しですから」

「……貸せ」

 俺は彼女から半ば強引に分厚い本の山を取ると、それを持ち上げて立ち上がる。

「あ、あの!?」

「いいから。この方が早いし、俺の気分も収まる」

 俺は自分勝手な言い分を並べて、歩き出す。
 この状況で放置する方がもやもやするし、さっきの憂鬱な気分を吹き飛ばすには動いていた方が良い。そう、これは俺が自己中な理由で勝手にやってるだけ。

「あ、あの、ありがとうございます」

 背中越しにかかる声を無視して、図書室へと急いだ。