コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 先輩【16】 ( No.52 )
- 日時: 2014/10/01 01:20
- 名前: ゴマ猫 (ID: /..WfHud)
「ねぇ、準一」
放課後、いつもの日課でもあるバイトに勤しんでいると、渚が横から話しかけてきた。ここ、カフェ風見鶏のキッチンはオープンで、横長の客席カウンターの裏側、つまりキッチン側に作業台がある。まぁ、計量カップだトングだなんだと色々な物がここに置いてある訳だが、手元は見えにくいがオープンキッチンのため、話していると印象が良くないので雑談は控えているのだが……。
「何だ?」
「今日、綾瀬先輩が準一に会いにきたって本当?」
何を言い出すかと思えば……。またその話しか。今日はもう何回目だろうと言うくらい、クラスの男子達にも同じような事を聞かれた。尋問に近い鬼のような形相でだが。
「渚も綾瀬先輩に興味があるのか?」
「うーん、ちょっとね」
問われて困ったように視線を泳がせ、さらに言い方にふくみがありそうな感じの渚。
「教室に来たのは本当だ。廊下でお節介したら、教室まで来てお礼言われた。ただそれだけ」
「お節介って準一が? 珍しい事もあるんだね」
渚は目をパチパチとまばたきさせ、本当に珍しい物でも見るかのように俺を見る。
「ただの気まぐれだ。落とし物を拾ったぐらいのな」
「ふーん、そっか、そうなんだ」
棒読みのセリフのあと、なぜかは知らないが渚にジト目で見つめられる。別に非難されるような事はしてないよな? 少なくとも人助けな訳だし。
「何だよ? 何か問題あるのか?」
「べっつに〜。私にはあまり優しくしてくれた事ないのにな〜なんて全然思ってないよ」
「おい、心の声がだだ漏れだぞ? 何度も言うが、そんな大層な事をした訳じゃない」
——チリンチリーン
そんな会話を遮るように、入口のドアが開き、ドアについている鈴が鳴り来客を知らせる。
「いらっしゃい……ませ」
勢いよく出した言葉が尻すぼみになってしまう。なぜならそのお客様は、たった今、話しの話題になっていた綾瀬先輩だったからだ。
「……いらっしゃいました」
まず最初に思った事、何で? 噂をすればなんとやらというやつか。とにかく、接客、接客。
「どうぞ。こちらの席に」
「はい、ありがとうございます」
俺は綾瀬先輩を空いているカウンター席に案内する。風見鶏の席数は10席しかない小さな店で、ピーク時なんかは、すぐ満席になってウエイティング(お客様にお待ち頂く事)がかかるほどだ。まぁそんな訳で、1人で来てる綾瀬先輩にはカウンター席になってしまう。
「ご注文お決まりになりましたら、お声かけお願い致します」
俺は渚が用意してくれていたメニューとお冷やを綾瀬先輩のテーブルに置き、キッチンへ戻る。
「……先輩、何しに来たんだろうね?」
俺にしか聞こえないくらいの声で渚が問いかけてくる。
「コーヒー飲みにきたんだろ?」
渚は俺の返事に肩をすくめてため息をつく。
「準一は鈍感過ぎるよ。わざわざコーヒーなんか飲みに来ないって。しかも、このタイミングで」
よくわからんが、コーヒーくらい誰でも飲みに来るんじゃないだろうか? タイミングは確かに良すぎるとは思うが。そもそも、ここの店はアップルパイも有名なのでその可能性も……。
「す、すいません」
綾瀬先輩の控え目な声かけで思考が戻る。いけない、いけない。今は仕事中じゃないか。気を取り直して、綾瀬先輩が座る席に注文を取りに駆け寄る。
「お待たせしました。お伺い致します」
「えっと、本日のオススメケーキとカプチーノをお願いします」
「かしこまりました。すぐにご用意致します」
伝票に注文を手早く書き込んで、キッチンへと戻る。……アップルパイではなかったか。俺は少し綾瀬先輩の来店動機が気になってきていた。