コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 先輩【17】 ( No.59 )
- 日時: 2015/04/25 15:42
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)
注文したコーヒーを飲みながら、持ってきた小説を読む綾瀬先輩は、まるで一枚の絵はがきにしたいくらいに似合っている。肩より少し長い綺麗なセミロングの黒髪が小説のページをめくるたび、静かに揺れて、まさに清楚で可憐なお嬢様といった感じだ。
人気が出る訳だな。自分でも無意識にそんな考えが浮かんでいた。その後は、比較的お店が落ち着いた雰囲気の中で、俺も渚もとくに綾瀬先輩には話しかけず仕事に集中していた。
***
「おーい、準一、渚。今日はもうあがっていいぞ」
マスターの声に気付き、壁掛け時計に目をやると、時刻はすでに21時をまわっていた。すでに閉店時間になっている。
「すいません、この洗い物終わらせてから帰ります」
「あぁ? そんなものは俺がやっておくから早く帰れ。あんま遅くまで仕事してっと明日大変だぞ」
俺の言葉にマスターが一喝。
オールバックにした前髪、肩まである長い髪を後ろでまとめ、腰にサロンを巻いたマスターは、ガタイの良さも相まってさながらハリウッドのアクションスターのようだ。
「いや、でも」
「でももヘチマもねぇ。お前ら学生の本業は勉強だろうよ。仕事やらせ過ぎて成績が落ちたなんて言われたらたまらんからな」
マスターは肩をすくめて吐き捨てるように言うが、この言葉の裏にはマスターなりの心配が隠されている。良くも悪くも素直に言えない人なのだ。──だから、ここは素直にお言葉に甘えさせてもらおう。
「ありがとうございます。では、お先に失礼します」
「すいません。お先に失礼します」
俺の後に続いて渚も頭を下げる。マスターは、右手をひらひらと振り「お疲れさん」と短く呟いた。
***
着替えを済ませて外に出ると、あたりはすっかり暗くなっていた。店内に居るとよくわからないんだよな。
「準一、綾瀬先輩いつの間にか帰っちゃってたね」
「やっぱりコーヒー飲みにきただけだ」
「そんなはずないと思うけどな」
首を傾げて、そう言う渚。渚に歩調を合わせて並んで歩く。少しだけゆっくりな帰り道で、俺は気になっていた事を渚に尋ねてみる事にした。
「どうしてそう思うんだ?」
「うーん、女の勘……ってやつかな」
女の勘っていうと、あれか? ドラマとかでよくある、男の浮気なんかを直感で見抜くやつだよな。この場合はどういう事になるんだ? そもそも付き合ってすらいないから、浮気だなんだとはならない訳だしな。
「よくわからん」
「まぁ、準一にはわかる訳ないか。そんなに鋭かったら……」
渚のため息まじりの言葉に、なんだかバカにされたような気がする。勘は結構鋭い方だと思うんだけどな。
「どちらにせよ、深い意味はないさ」
俺も少し来店動機は気になっていたが、とくに何もなさそうだな。そんな会話をしてるうちに、いつものわかれ道まで着いていた。
「じゃあまたな、渚」
「うん、また明日ね」
***
さてと、今日はまた牛丼でも買っていって夕飯はちゃちゃっと済ませるか。
「やめて下さい!!」
突然に聞こえてきた声に驚いてしまう。どうやら女の人の声だったけど、あまり穏やかな雰囲気ではなさそうだ。気になった俺は声がした方向へと歩きだした。