コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

先輩【18】 ( No.63 )
日時: 2014/10/01 01:27
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: /..WfHud)

 声がした方へと近付いていくと、そこは薄暗い路地裏だった。ここには街灯もなく、建物に囲まれて周囲から見えづらくなっており、さらに行き止まりのためほとんど人が来る事はない。こんな所でなんだってんだ。そんな疑問を浮かべながら、路地裏を覗き込む。

「……人?」

 背の高い大柄な男が2人。男達が邪魔で見えづらいが、その奥に先ほどの声の主と思われる女の人も居る。——さっきの声から推測すると、この女の人、こいつらにからまれて困ってるっといった感じだろうか?

「困ったな〜、俺達は悪い奴じゃないんだぜ? ただ道に迷って困ってるから送ってってやろうと思っただけで」

「そうそう、それなのにその態度は酷いんじゃないか?」

 男達は芝居がかった表情とセリフで女の人にそう言う。そもそも自分で悪い奴じゃないとか言う時点で、悪者確定なんだが。でもまぁ、まだこの段階じゃ断定はできないからもう少し様子を見るか。

「ですから、本当に大丈夫なんです。そこを通して下さい」

「いやいや、人の親切ってのは素直に受けといた方がいいと思うぜ?」

 男達は薄笑いを浮かべながら、まったくどく気はないようだ。女の人はテンパっちゃってるみたいだし。
——やれやれ、これは行くしかなさそうだな。あまり大事にしたくはないし、穏便にいくか。

「こんな所に居たのか? 捜したよ」

 自然に、さり気なく、さも捜してたように演技をしながら、男達の横をすり抜けて女の人の手を掴む。

「——えっ?」

「ダメだろ? 勝手にどっか行ったら。さぁ、家に帰ろう」

 女の人は状況をいまいち理解できてないようだが、今は強引にでもここから脱出するのが先決だ。

「ちょっと待て!! お前その子のなんなんだ? 俺達が送ってこうとしているんだ。余計な真似するな」

 さっさと脱出しようとした俺を、男の1人が立ちはだかり、出口をふさぐ。……本当にめんどくさい奴らだ。思わずため息が出てしまう。本気で嫌がってるのがわからないのかね? けど、ここでそんな事を言ってケンカにでもなったら、彼女が危ないし嫌な思いをするだけだろう。——なら。

「何って彼氏ですよ? あんたらこそ、人の彼女にちょっかいだしてなんなんです?」

「……ちっ、彼氏持ちかよ。だけど、お前ムカつく奴だな」

 かなり抑えたつもりだが、俺の言葉が男を刺激したらしい。今にも飛びかかってきそうな表情だ。

「ちょっと痛い目みないと……」

「おい、誰か来るぞ!!」

 爆発寸前といったその瞬間、男の1人が止める。どうやら、あまりに騒いでたんで人が来たようだ。

「お前、覚えておけよ」

 男の1人はそんな捨てゼリフを残し、連れの男とともに足早に去っていった。誰が覚えててやるか。俺は震える彼女の手を引き、とりあえず明るい場所まで移動する。

「大丈夫ですか? ……って、綾瀬先輩!?」

「……き、清川君」

 街灯の下で見えた、見知った顔。俺が助けた人物は綾瀬先輩だった。