コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 先輩【19】 ( No.67 )
- 日時: 2015/04/25 15:44
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)
「あの、助けていただいてありがとうございます」
少し俯きながら、俺に向かってお礼を言う先輩。
「何やってたんですか? あんな所で」
「そ、その、帰り道で迷ってしまって……」
とりあえず落ち着ける所で話しを聞くため、先輩にはあの場所から近かった俺の家にあがってもらっていた。下手な所へ行って、さっきの連中に遭遇でもしたら面倒だからだ。
「迷ったって……ここら辺に先輩も住んでるんですよね?」
「……えぇ、ライズタワーなんですが」
「ライズタワー!?」
ライズタワーと言えば、この辺じゃ有名な高層マンションだ。お金持ちしか住んでないとまで言われるくらいに色々な意味で高い。やっぱり先輩ってちょっとお嬢様なのか?
「そんなに驚くとこではないと思うのですが……」
俺の驚く声を聞いて、先輩は首を傾げながら控えめな口調でそう言う。
「いや、驚きますよ。俺初めてあそこに住んでいる人に会いましたよ」
別に大げさに言っている訳ではない。事実、ライズタワーに住んでいるほとんどの住民がお金持ちだ。政治家から作家まで、ごくごく一般的な家庭が住んでいるなんて話しは聞かない。まぁ、あくまで聞いた話しだし実際はどうかは知らないが、少なくとも俺の周りには居ない。いまいち話しの流れについていけていない先輩だが、重要なのはそこじゃない。
「ってか、ライズタワーならまるっきり反対方向じゃないですか」
「……えっと、その、普段は学校と家の往復ですので……迷う事はないのですが、今日は寄り道をしていたら道がわからなくなってしまって」
寄り道というのは俺のバイト先、風見鶏の事だろう。それでも迷うような距離じゃない。もしかしたら先輩って。
「もしかして方向音痴ですか?」
「そ、そんな事は……ないと思います」
俺の指摘に先輩は図星をつかれたような表情をしながら自信なさげな否定をする。わかりやすい人だな。
「じゃあ、送っていきますよ」
「そ、そんな!? 大丈夫です。1人で帰れますから」
俺が立ち上がって上着を羽織ると、先輩は慌てて立ち上がり俺を制止する。
「いや、また迷われて変な奴に絡まれても困りますから」
俺がそう言うと、先輩は少し肩をびくりとさせ、考え込むようにしてから頷いた。
「……すいません。お願いします」
「気にしないで下さい。前にも言いましたけど、自分が勝手にやってるだけなんで」
前に先輩を手伝った時も親切の押し売りをしたかった訳じゃない。まして、恩や借しをつくりたかった訳でもない。ただなんとなく、放っておけなかったからだ。だから勝手にやっているだけ。そんな俺の言葉を聞いて、先輩は小さく笑った。
「……変わってないんですね。清川君はずっと優しいままです」
そう呟いた先輩はとても嬉しそうにしていて、なぜだかその顔見ていると、自分でもわからない胸の奥が温かいものに包まれたように感じた。
「……優しくありません。それに、そんな短期間で性格は変わりませんよ」
なんだか褒められたからなのか、気恥ずかしくて、そっけなく返してしまう。
「……そうじゃないですよ。そうじゃ、ないんです」
先輩の言葉はそれ以上続かず、俺はその言葉の続きが気になりながらも玄関のドアを開けて、そのまま先輩を送っていった。