コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 揺れる心【綾瀬編】 ( No.73 )
- 日時: 2015/04/25 15:57
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)
ベッドに入り、目を閉じていると、まるで昨日の事のようにあの時の記憶が思い浮かんできた。
————数年前。
私は、両親に『高校を卒業するまで』という期限つきでこの街に帰ってくる事ができた。
帰ってきて一番初めにした事は、『彼』を捜す事。彼というのは、私が小さい時にこの街に居た時に出会った男の子の事。人生……というには早すぎるのかもしれないけど、今までの中で一番楽しかった思い出だ。私の中ではあれが『初恋』だったのだと今にして思う。
おぼろげな記憶をたどって、彼の家に行ってみる事にした。そこに辿り着くまではかなりの困難をきわめ、そして大分迷ってしまったけれど、なんとか辿り着く事ができた。表札を確認してから多分間違いないと思った。
道は覚えるのは苦手だけど、人や物の形を覚えるのは得意だ。
彼はまだ覚えているだろうか? そんな不安と期待が入り混じった感情でインターホンを鳴らして、見知らぬ女性が玄関の扉を開けて出てきたのをよく覚えている。
その女性に尋ねてみたところ以前の住人、つまり彼と彼の家族は引っ越してしまったらしい。私はショックのあまり、しばらくその場に立ち尽くしてしまった。
——それから1年の歳月が流れて、私は再び彼に再会した。想像してたよりもずっとかっこよくなっていて、あの時の優しさも変わっていなかった。
……ただ、どこか彼は影を落としていて、以前の彼とは少し変わった部分もあったようだった。
本当はすぐさま言いたかった。『ずっと昔に一緒に遊んだよね。覚えている?』って。けれど、言えない理由があった。言ってしまえば全てが終わってしまうような気がするから。あの日のように元には戻れなくなってしまう気がするから。
だから、私は学校の先輩として彼に接する事にした。喉まででかけた言葉をぐっと飲み込んで、まるで初めてあったかのように振る舞い、話した。——それでも、彼に会いたくて彼のバイト先にまで行ってしまったのだけど。
彼の優しさに触れるたびに、胸の奥がチクチクと痛む。この痛みはいつかなくなるんでしょうか? ぐるぐると回る思考を止めて、強引に意識を暗闇へと沈めた。