コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

疑問【20】 ( No.74 )
日時: 2015/04/25 15:59
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)

「お昼ですか?」

「……えぇ。もし良かったらなんですが」

 昼休み。俺のクラスに突然やって来た綾瀬先輩に教室の男子達が色めき立つ。つい先日、綾瀬先輩が迷子になって不良(同じ歳くらいだったと思う)に絡まれて助けた……と言っていいかは分からないが、あの一件以来関わる事が増えてきたように思う。

「うーん、ちょっと待っててもらえますか?」

「あっ、あの。もし都合が悪いようでしたら、その、日をあらためますので」

 俺の逡巡に気を遣ってくれたのか、綾瀬先輩は申し訳なさそうにそんな事を言う。

「いや、都合が悪い訳じゃないんですが、俺の友達が一緒でも大丈夫ですか?」

 こう言ってはなんだけど、綾瀬先輩って凄い人見知りっぽいし、そういうの苦手そうに見えるんだよな。
その点、涼や渚はあまり人見知りはしない性格なんだけど。ちなみに俺だったらよく知りもしない相手と絶対に相席などしない。そんな状況下だったら間違いなく食ったんだか、食ってないんだかよく分からなくなるし。

「清川君のお友達……ですか?」

 綾瀬先輩は、まるで珍しい事を聞いたかのように首を少し傾げてくる。もしかして俺、友達とか居ないと思われてたんだろうか?

「えぇ。それでも良ければ」

 教室の入口で話していたのだが、首だけをくるりと後ろに回して教室で自分の席に座っている涼にアイコンタクトで確認を取る。黒縁メガネをくいっと片手で直す仕草でサインを返してくる。多分、これはOKのサインだろう。

「……ご、ご迷惑でなければ、ご一緒させていただきたいです」

「迷惑なんて事はないですよ。先輩さえ良ければ」

 問題はあいつか。



 ***



「あ、綾瀬先輩!? どうしてここに!?」

 教室に入ってきた途端に想像通りの反応をする渚。そりゃ驚くよな。この学校じゃ知らない人は居ない(元々は渚から聞いたんだけど)って言われてる有名人の先輩が俺ら後輩の教室に居たらさ。

「話せば長いんだが、とりあえず座って飯にしよう」

 渚にこの間の事を話すのはなんとなく気が引ける。それに、綾瀬先輩だってあまり話してほしくない話題だろうしな。困惑しながらも、とくに追求する訳でもなく空いている席に座り受け入れてくれる渚はやっぱり良い奴なんだろう。

「綾瀬先輩って、こいつと最近仲良いですよね。もしかして何か弱味でも握られてます?」

 状況についていけてない渚を放置して、涼は冗談半分に綾瀬先輩に問いかける。涼の冗談にいちいち反応するのもなんなので弁当開けながら右から左へと聞き流す。ちなみに今日の俺の昼飯は登校前にコンビニで買った鮭弁当だ。温められないのがネックだが、学食に行って熾烈な競争を繰り広げる事を考えればなんて事はない。

「よ、弱味なんて!! 清川君はとても親切で優しくて誠実な人なんです!!」

 涼の問いかけに、綾瀬先輩は椅子から立ち上がって勢いよく反論した。あまりに意外な反応に俺も涼もぽかんとしながら綾瀬先輩を見つめてしまう。すると、綾瀬先輩は頬を赤らめて俯きながら小さな声で「……すみません」と言って座り直した。

「い、いやぁ、冗談ですよ。それに、綾瀬先輩に弱味なんてないでしょうし」

 涼は慌てたようにフォローをする。
 綾瀬先輩には冗談とかは通じなさそうだな……しかし、そんな風に思われてたなんて正直くすぐったい気分だ。

「……ふ〜ん。準一も隅に置けないなぁ」

 いつの間にか復活していた渚にそんなセリフとともにジト目で見られる。いやいや、別に悪い事してないのにこの居心地の悪さはなんなんだ?

「そんなんじゃねぇから。涼も渚もあまりからかうなよ」

 俺がそう言うと、涼が面白いおもちゃでも見つけたように「ほほぉ〜」と呟き、渚からはさらにジト目で見られる。綾瀬先輩は俯いたままだし……。

「まぁまぁ、新谷さんいいじゃないの。あのぶっきらぼうな準一に新しい友人ができたんだから」

 渚をなだめるように涼がそう言うと、渚は無言で俺から視線を逸らした。ってか、先輩と俺っていつの間に友人になったんだ? 確かに最近は会う機会は多いけどさ。

「じゃあ、俺から提案なんだけど、親睦を深める為に今度の休みこのメンバーで遊びにいかないか?」

 話しを変えるように涼はそんな事を言い出す。

「パス。俺バイトあるし、1日フリーの日とかないから」

 即却下。
 大体、涼が提案したプランなんてろくなものじゃない。前回、涼と遊びに(正しくは付き合わされたんだが)行った時なんて、世界のオカルト展なんて面白くもなんともない展示物を2時間も眺めただけだったし。

「ふふん。心配するな。1時間あれば問題ない」

 涼は不敵に笑うと、手帳を出して、スケジュールを半ば強引に決めだすのだった。