コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 疑問【23】 ( No.79 )
- 日時: 2015/04/25 16:01
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)
「ねぇねぇ、準一。あれ取れるかな?」
店内に入ると、渚が俺の制服の袖を引っぱりながら足を止める。
「うん? あぁ、ありゃ無理だ。やっても金が吸い込まれるだけだぞ」
渚が指差したのはゲーセンではどこでも見かけるクレーンゲーム。お金を入れて、クレーンを操作して景品をゲットするという単純明快なゲームではあるのだが、大抵は店側の意図的な策略により取れそうで取れないという悪魔のような絶妙なパワーバランスでプレイヤーを絶望のどん底へと叩き落とすゲームと言っても過言ではない。
「……そうかなぁ〜?」
渚は納得がいかないような表情で中にある景品を見ている。その隣りで綾瀬先輩が珍しい物でも見るかのように違う台の中にある景品を見つめていた。
「先輩も興味あるんですか?」
さっき言われたからという訳ではないが、確かに先輩をひとり放置するのも気が引けるので、先輩の横に行って声をかける。
「あっ、えっと、あの猫のぬいぐるみがとても可愛くて」
そう言って先輩が指差した先にあったのは、とても不細工なぬいぐるみ。デフォルメと言うんだろうか? 2等身の体で、デカい頭と小さな胴体。さらに顔は子供が落書きしたような、なんとも言えない微妙な顔だ。お世辞にも可愛いなんて思えないが、ゆるカワみたいな感じなのだろうか? ちなみに渚が欲しいぬいぐるみは隣りに配置されている犬のほうみたいだ。
「やってみます?」
「……でも、こういうのやった事なくて、よくわからないんです」
先輩、もしかしてゲーセンすら来た事ないのか? よっぽど箱入りなんだろうか? でもまぁ、先輩はこういうとこに来そうな感じしないしな。
「大丈夫です。取るのは別ですが、操作は簡単ですし、とりあえずチャレンジしてみたら良いと思いますよ」
俺の言葉に先輩は一瞬迷ったような表情を浮かべたが、なんどか頷いたあと鞄から財布を取り出して硬貨を一枚入れてチャレンジスタート。先輩がチャレンジするというので、渚も涼も集まってくる。
「このボタンを押して横移動です」
俺は隣りについて、先輩にクレーンゲームの説明をしていく。操作自体は大して難しい訳ではないので、あっという間に説明は終了する。問題はこの後だ。
「……あっ! 落ちてしまいました」
先輩の操作するクレーンはブサブサ……もとい、ブサかわ? ゆるカワ? まぁ、このさいどっちでもいいが、そのぬいぐるみがあと一歩という直前で落下してしまう。惜しい!! 非常に惜しいのだが、この後少しが難しかったりするのだ。
「先輩、そこからが難しいですよ」
「そうなんですか?」
首を傾げてそう言う先輩はとても年上には思えない可愛らしさがある。きっと、俺でなければその表情は自分だけに向けられているんではないか? と勘違いして舞い上がってもおかしくはないくらいに。……いや、今はそんな事はどうでもいいか。
————結果から言うと、取れなかった。何度かチャレンジして、その都度アドバイスもしたりしたのだがやはり簡単に取れるような物ではない。
「仕方ないですよ。そうそう上手くはいかないもんです」
「……難しいんですね。奥が深いです」
先輩は力なくそう呟きながら、わかりやすく肩を落として諦めきれない様子だった。そんなにあの不細工なぬいぐるみが欲しいのか。……よし。
少しだけ、ほんの少しだけお節介してやるか。そんな事を思いながら入口付近から店の奥へ歩きだした。
***
「よし、最後はエアホッケーで締めるとしよう」
涼の言葉に気づいて腕時計に視線を落とすと、1時間という時間はあっという間に過ぎさり、そろそろ出なければいけない時間になってきていた。なんだかちょこちょこ遊んでいたら意外とあっという間だったな。