コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

始まりの場所 ( No.8 )
日時: 2014/09/30 23:36
名前: ゴマ猫 (ID: /..WfHud)

 しんしんと降る雪を見上げていると、まるで空に吸い込まれていくような、そんな感覚に陥る。
 ——手がかじかんできて感覚が少し変な感じだ。確か前にもこんな事があった。
 それは冬の透き通った青空の下で、1人の女の子と約束をした事。その約束がなんだったかなんて思い出せない。なんせ小さい時の話しだ。覚えてる方が珍しいだろう。

 ——覚えている事は、色白の絹のような肌に、長くて綺麗なサラサラの髪、瞳は大きく、整った顔立ちは、とても可愛いかったという事だけだ。
 おそらくこの時、俺は人生で初めて恋をした。

 ……でもまぁ、初恋は叶わないって言うし、そういう思い出ってのは過去になるにつれて美化されていくものだ。かくいう俺もその1人な訳で、甘酸っぱい思い出を胸の中にしまい込んですっかりそんな気持ちを忘れていた。

 そして今、俺は地元にある小さなカフェで働きながら高校に通っている。訳あって1人暮らしをしてるため、何かとお金も必要なのだ。
 そのため放課後と休みの日はバイトが日課になっており、部活はおろか友達と遊んだりなどは、なかなかできず、高校生らしくない毎日を送っていた。

「何ボーっとしてんの? 早く帰らないと雪ダルマになっちゃうよ」

 今日もバイトが終わり、都心では珍しい初雪に目をうばわれていると、後ろからやや高めの声がかかった。

「……うるせー。色々と考え事してたんだよ」

 俺は少し不機嫌な口調で返す。この声の主は、新谷 渚(しんたに なぎさ)小さい頃から一緒で、小中高校も一緒、さらにはバイト先も一緒という幼なじみだ。ボブカットの黒髪に、身長は低めではあるが、低過ぎるという訳でもなく、スリムではあるが痩せ過ぎてるという訳でもない。
 さらに顔も整っているせいか、学校では結構モテてるんだとか……まぁ、俺には関係ない事だが。
 渚とは腐れ縁とでも言うのか? 腐り過ぎて糸引いてる感じだ。

「準一が考え事〜? 明日は雨でも降るのかな? あっ、そういえば明日も雪の予報だったね」

 渚は俺の顔をジロジロと見つめ、皮肉っぽく笑いながらそう言った。
 まったく失礼なやつだ。大体、俺が考え事してたくらいで雨や雪になってたらおちおち考え事もできないだろ。俺は雨ふらしかなんかか?

「……ほっとけ」

 いちいち反応するのも面倒くさいので、一言だけそう返す。このやりとりもずっと変わらない。
 いつもこんな調子でからかったり、からかわれたりと、もはや挨拶と同じくらいあたり前のやりとりだ。

「とにかく、風邪なんてひいたら大変なんだから早く帰るよ」

「へいへい」

 渚にうながされ、俺は家路に向かってゆっくりと歩きだした。