コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 疑問【25】 ( No.83 )
- 日時: 2015/04/25 16:02
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)
「やった!! 私たちの勝ち!!」
——白熱した攻防戦は渚、涼チームに軍配があがった。どうも先輩はこういったゲームは苦手だったみたいで、実質2対1での勝負だった。
まぁ、勝ちにはこだわってなかったし、『いい勝負だった』という目的は果たした訳だから俺としては文句はない。
「く、悔しいです」
本当に悔しかったのか、先輩はうらめしそうに渚と涼を見ていた。……ごめん、先輩。手を抜いた訳じゃないけど、さすがに渚と涼を相手に1人(実質)じゃ無理だ。
「さて、そろそろ俺はバイトに行くぞ。間に合わなくなっちまうし」
「待て準一。罰ゲームの件は忘れてないだろうな?」
立ち去ろうとした俺を、涼が後ろから呼び止める。
「なんだよ? 俺は何でもは叶えてやれないぞ?」
俺がそう言うと、涼はアメリカ人のようなオーバーリアクションとともに肩をすくめる。ってか、涼のやつ本当に今日はどうしたんだ? まるで別人のようにテンションが高い。いつもは、霊がどうした、七不思議どうとかしか言わないくせによ。
「構わない。俺が出す罰ゲームは、準一にでもできる事だろうしな」
「もったいぶるな。時間はないんだし、早く言えよ」
俺がそう言うと、涼はコホンと咳払いをして、軽く呼吸をととのえる。
「準一。今度の土曜日、新谷さんの家に行って掃除手伝いに行け」
「……どんな事を要求されるかと思えば、そんな事か。おやすいご用だ」
もっと無理難題をふっかけてくるかと思ってたが、そんな事なら罰ゲームじゃなくても……いや、それは面倒だ。うん。
「ち、ちょっと!! 山部君!? どうしてそうなるのよ!?」
涼が打ち合わせとは違う事を言い出したのか、渚は慌てて涼に抗議をしている。
「別に構わないだろ? 新谷さんも使わなくなった空き部屋の掃除が大変だって言ってたじゃないか?」
「そ、それはそうなんだけど。準一に頼まなくても……」
申し訳なさそうにしながらも、チラチラと俺の様子をうかがう渚を見ると、よほど面倒な作業らしい。
「あの……それなら私がやりましょうか?」
「いやいや、綾瀬先輩は初犯だし罰ゲームはなしって事で」
先輩の申し出をやんわりと断る涼。まぁそうだろうとは思ったけどな。あと、初犯って俺も先輩もエアホッケーの勝負に負けただけで犯罪的な事はしていないから。
「俺なら構わないぞ? いつも食料事情で世話になってるし、それくらいはな」
「じ、じゃあお願いしちゃおうかな」
それくらいで渚に今までの恩返しができるとは思わないが、少しでも借りを返せればいいと思う。
「あ、あのー。清川君? 仕事のお時間は大丈夫でしょうか?」
先輩が俺の制服の裾を引っ張って問いかけてくる。ハッとして自分の腕時計で時刻を確認する。
「あっ」
時計の針は絶望的な位置を示しており、いわゆる遅刻確定の瞬間だった。
***
「はい、先輩これ」
「こ、これって……!?」
遅刻確定した俺はバイト先である風見鶏に連絡を入れたのだが、風見鶏の責任者であるマスターは『暇だし、お前が遅刻するなんて珍しいから許してやるよ』と寛大な心で許してくれた。日頃マジメに仕事をしてきたおかげと言うべきだろうか? そんなこんなで少しではあるが余裕ができた俺は先ほどゲットしておいた物を先輩に渡しておく事にしたのだ。
「なんか欲しそうな顔してたんで。別にいらないならいいんですけど」
「い、いえっ!! いります!! ほ、ほしいです……」
俺がそう言うと、先輩は慌てたように返事をして不細工なぬいぐるみを受け取った。先輩のその声がうわずっていて、それに気付いて尻すぼみになっていったのがちょっと可愛かった。
「……準一って、そんな事やるんだ〜」
背後から寒気を感じて振り返れば、そこには渚がジト目で俺を見ていた。
「なんだよ?」
「べっつに。準一も男の子なんだなって思っただけ」
渚は、わかりやすく機嫌を損ねているが、一体何が不満だっていうのだろうか。だいたい、渚が先輩に気を遣えって言ってきたんだろうに。気を遣えば遣うで不機嫌になるなんて一体どうしろって言うんだ?
あまり話し込んでいると、さらに遅刻になってしまいそうだったので追求はせずにそのままバイト先に向かう事にした。