コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 疑問【28】 ( No.88 )
- 日時: 2015/04/25 16:05
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: RnkmdEze)
「こ、この掃除を1日で終わらせろと?」
「や、やっぱ厳しいかな?」
土曜日、久しぶりにバイトも休みの完全休養日に来ていたのは渚の家だった。眼前に広がるのは六畳くらいの部屋。床はフローリングで、茶系を基調とした落ち着いた色合いの家具に囲まれていてなかなかオシャレな部屋だ……が、かなり足元には物が散乱していて足の踏み場すらない状況だ。この状態では今は部屋というよりは物置と言った方が正しいだろう。
「だろうな。大晦日の大掃除なみの手間だぞコレは」
「……あ、あはは。だよねー」
渚の乾いた笑いが部屋に響く。
なぜこんな事になったかと言うと、話しは数日前にさかのぼる。渚と涼と綾瀬先輩でゲーセンに行った日の事。ひょんな事からエアホッケーで負けた方は罰ゲームという事になり勝負をする事になったのだが、まぁ早い話しその勝負で俺は負けたのだ。で、なぜか渚の家の片付けを手伝う事になり、現在に至る。
「別に今日1日で終わらせる必要はないよ。終わらなかったらまた次の機会に手伝ってもらえば……」
今日だけじゃなく、他の休みにも俺を使うと言うのか? 正直それは勘弁してもらいたい。
「今日で終わらせるから大丈夫だ」
俺は渚に一言だけ告げると、足元にある大量の本をまとめていく。幸いにも物が大量にあるだけで部屋は汚れてはいない。気合いを入れて五倍速くらいで動けば今日中にはなんとかなるだろう。
***
「……ふぅ、なんとか足場は確保できてきたか」
散乱してた物をまとめるだけでもいくらかは綺麗に見えてくる。ここから「いる物」と「いらない物」を分別していけば、さらにスペースの確保につながる訳だ。大抵片付けが苦手な人はこの「捨てる」という作業ができない人が多い。まだ使えるかもなんて思ってしまい込んでいくと、収納スペースが溢れていくという負のスパイラルにハマってしまう訳だ。
「ごめんね。来客用の部屋が物置がわりになっちゃってて」
「気にするな。いつも食料援助してもらってるからこのくらいはな」
やっと一息ついて、フローリングに腰をおろす。
「今お茶でも……」
——ガチャ
「お疲れ様、準一くん。わざわざ手伝ってもらっちゃってありがとね」
扉を開けて入ってきた人物は、渚のお母さんである楓さんだった。とても若々しく、俺らとそう変わらないくらい幼く見えてしまう童顔な人だ。渚と並んで歩いていると、姉妹と勘違いしてしまうくらいに。
「さぁ、少し休憩してちょうだい」
楓さんが持ってきてくれた温かいお茶を飲みながらしばしの休憩を取る俺。
「そういえば準一くん。大変だったわねぇ。お父様がお亡くなりになられて引っ越しする事になってしまって……」
「ちょっと!? お母さん!?」
楓さんの言葉に渚が慌てるようにして反応する。俺の父、父さんについての話しはタブーになっていて俺の仲の良い友人……(と言っても渚と涼くらいだが)の間ではその話題はまず出る事はない。
「渚、大丈夫だ。父については残念ですが、仕方ありません。いつまでも悲しんではいられませんから」
口から出た言葉に心の底から言えていない自分に嫌気がさす。本当はわかっている。父さんはもう帰ってこない事も。だけど、もしかしたらという期待を抱いてしまう。俺が信じていれば、いつかは帰ってくるんではないか? と。
——10年前
父さんが乗る飛行機が原因不明の事故で墜落した。幸いにも死傷者は出る事はなく、パイロットを含む乗客全員が無事だった。ただ1人の乗客を除いて。
その乗客こそが、俺の父親である清川 龍一だった。事故当時、機内のどこにも父さんの姿は見つからず、その後行方不明扱いとなった。以来、行方はわかっておらず世間では死亡したとされている。
「……ごめんなさいね。少し無神経だったわ」
楓さんは申しわけなさそうに謝罪してくる。いや、むしろ悪いのは俺だ。いつまでも過去を引きずっている俺がいけない。もちろん忘れた方がいいとか、そういう事じゃない。ただ、いい加減割り切らなければ他の人にも気を遣わせてしまう。
「いえ、楓さんは悪くありません」
空気が重苦しい感じにならないよう、つとめて明るく言ったつもりだったが逆効果だったようだ。楓さんは居心地が悪そうに「ごめんなさいね」と呟きながら部屋を出ていった。
「……楓さんに気を遣わせちまったな」
「そんな事ないよ。お母さんもいきなりあんな事言うから……準一ごめんね」
申しわけなさそうに頭を下げる渚だが、そんな事をされるとこっちが罪悪感でいっぱいになってしまう。
「気にしてないさ。それより、片付けの続きやろうぜ」
ほとんど休憩していないが、今は少しでも作業をして体を動かしていたほうが気持ち的に楽だった。