コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- 眠れぬ夜は【30】 ( No.90 )
- 日時: 2014/10/05 22:36
- 名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: 2CRfeSIt)
「やっぱり少し狭いね……えへへ」
「…………」
シングルサイズのベットでは、互いの距離が近くてつねに神経を集中させていないと体が触れてしまう。——結局、俺は誤解を解くために渚と一緒に寝る事を選んだ。この事は楓さんにも了解を得てあるので問題ない。むしろ、楓さんは俺と渚がとっくに付き合ってるもんだと思っているらしい。
だけど隣りで渚が、こんな事でこんなに喜んでくれるのだから……今日のところはそれは言わない事にしておいた。
「そういえば、さ。準一って、綾瀬先輩の事好きなの?」
渚に背を向けるようにして寝ている俺の背中から声がかかる。
「なんだ突然? 別に好きとか嫌いとか、そういう感情はないよ」
綾瀬先輩は、すれ違ったら思わず振り返って見てしまうほどの容姿。さらには学年トップクラスの秀才であり、育ちが良いのだろう。いつも丁寧な言葉づかい。微笑みかけてもらった日には10人が10人勘違いするほどである。
だけど、俺は違う。先輩がなぜいつも俺に対して気を遣うかの理由がわかるから。本当に生真面目な人なのだ、綾瀬先輩は。いつぞやの俺のお節介をいまだに恩を感じているらしく、いつも俺に気遣いをしているように見える。「気にしないで下さい」と言っても性分なのか、気にしてしまう人なのだからこれはもう本人が納得するまで黙っているしかないだろう。
「……ふーん」
渚を背にするようにして寝ているので、顔は見えないが納得いってないのだろう。不満げな声が背中から聞こえる。
「じゃあ、渚はどうなんだ? 先輩の事嫌いか?」
「そんな訳ないよ。落ち着いてて、私と一つしか歳違わないのに大人の女性って感じで……」
渚はそこまで言いかけて、言葉を切る。
「不安……なのかな。準一は先輩と居る時、よく笑っていて……それで」
「何もないよ。今までも、これからも」
どうして渚が不安に思っているかはわからない。だけど、少しでもその不安を取り除いてやりたくて心の中で思っている事をそのまま言葉にする。
「それに、正直そういう感情がよくわからない」
先輩を見て綺麗な人だと思うし、完璧な人なのかと思えば極度の方向音痴だったりと、抜けてる性格も魅力なのだとは思う。ただ好きと言えるほど、今の俺にはそういう気持ちがない。いや、わからないんだ。
そのまま沈黙が続く。暗闇の部屋の中でカーテンの隙間からは外にある街灯の明かりがぼんやりと部屋を照らしていた。気づかなかったけど、小さい頃に来た時に比べて渚の部屋は様変わりしている。昔はぬいぐるみやらなんやらで子どもっぽい部屋だったのに、今は落ち着いた白や青を基調とした色あいで統一されている。さらに部屋の中は鼻腔をくすぐるほのかな甘い香りがして、やっぱり、女の子、なんだよな。
今までそんな風に意識して見てこなかったからかもしれないが、ふとそんな事を考えてしまう。
「もし……もしさ、私が準一の事を好きって言ったら……どうする?」
「…………わからないよ」
渚の真意はわからないが、もしそうなったら俺は——どうするのだろう? 考えても答えは見つかりそうにない。
「……そっか」
追及する訳でもなく、ただ一言、渚はそう言った。
「……でも、渚にはどんな形になってもそばに居てほしいって思うかもしれない」
俺は誰に言った訳でもなくひとり呟く。心の底では寂しいのかもしれない。だからこの間もユキに対してあんな気持ちになったのかもしれない。
「……そっか」
渚が小さくそう呟くと、それ以上は何も話さず意識を暗闇へと落としていった。