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悪意と不思議な出来事【31】 ( No.91 )
日時: 2014/10/05 22:32
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: 2CRfeSIt)

 冬特有の高く青い空は今日も変わらず、冷たくピンとはりつめたような朝の空気がまだ眠気が残る体に気合いを入れてくれる。いつもと変わらぬ日常、のはずだったのだが今朝は少し違っていた。

「なんだこれ?」

 昇降口で靴を履き替えようとしたところ、その中から一枚の封筒。宛名は俺の名前になっている。差出人の名前……は書いてないか。
 よくわからないが、どうやら俺宛の物らしい。中身を確認してみるため、封の端を手でちぎる。多少やり方が雑ではあるが、今はハサミもないのでよしとしよう。

「…………」

 ——これは、ラブレターというやつだろうか? 手紙の内容は『以前から気になっていてもし良かったら付き合ってほしい』との事が書かれていた。さらに手紙の最後に『もしOKなら指定の場所に来て下さい』で締めくくられていた。

「ヒュー、やるね。最近モテ男」

「……涼か。茶化すなよ」

 背後で親友である涼が楽しいオモチャでも見つけたかのように、ニヤニヤと俺を見ていた。

「いやいや、茶化してないさ。新谷さんにしかり綾瀬先輩にしかり、世の中は物好きが多いようだな」

「そうだな。それは同感だ」

 渚や先輩がどう思ってるかは知らないが、俺と一緒に居て遊んだりするなんて余程の物好きだ。まぁ、涼も人の事は言えないはずなんだがな。
 だからこそか、話した事すらない相手に好意を持つっていうのは正直俺には考えられない。一体、俺のどこを見て好意を持ったのか聞いてみたいくらいだ。

「おい、待てよ準一」

 立ち止まって会話せずにそのまま教室へと歩いていくと涼が呼び止める。

「なんだよ?」

「うん? また機嫌悪いな。さては、思春期か?」

 その瞬間、俺はくるりと踵を返して再び教室へと歩きだす。

「だあっ! 悪かったよ。からかって悪かった」

「なんだよ? 今日は涼の冗談に付き合う気力はないんだ」

 この間の渚の一件以来、俺の心は霞がかかったように晴れない。あの時、なぜ渚はあんな事を聞いてきたのだろう? その考えがグルグルと回って、前に進む訳でもなく、戻る訳でもない。まるでハムスターの運動器具のような状態だ。

「……いや、その返事どうすんのかと思ってな」

 涼は少しバツが悪そうに尋ねてくる。どうするもこうするも——

「直接断ってくるよ」

 差出人がわからない以上、指定された場所に行って直接断るしかない。多分、ダメだった場合は来なくていいという事なんだろうが、礼儀として、だ。

「そうか。なぁ、あまりひとりで考えすぎるなよ? たまにはその、俺を頼れよな」

「…………ははっ」

「な、なにがおかしいんだよ?」

「いや、だってな」

 涼の思いがけない一言に思わず笑いがこぼれしまう。涼は元気のない俺を見て励まそうとしてくれたのだ。ただ、涼はあまりそういう事をしなれてないせいか茶化すような口ぶりでキッカケをつくろうとしてくれたのだろう。
 ——ふぅ、つくづく俺は周りが見えていないんだな。これじゃいけないな。

「涼、ありがとな」

「……おう」

 涼は少し戸惑ったようだったが、俺の言葉を聞いて頬かきながら恥ずかしそうに笑っていた。