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悪意と不思議な出来事【32】 ( No.94 )
日時: 2014/10/05 22:28
名前: ゴマ猫 ◆js8UTVrmmA (ID: 2CRfeSIt)

 ————放課後、俺は隣町で有名な神社に来ている。自転車で15分、歩けば30分の距離。俺は自転車ではなかったので歩いてきたのだが、なかなかに遠い。
 なんでもここの神社は都市伝説があるらしく、なんとかの神様が有名なんだとか。その神様に失礼な事をすると記憶を消されるんだとかなんとか。その、なんとかの部分は涼に聞いたんだが、あまり真剣に聞いてなかったせいか忘れてしまった。
 それはさておき、下から見上げると首が疲れそうなくらい長く急な石段を上がって、鳥居をくぐった先で手紙の差出人を待っていた。ちなみに今日はバイトは少し遅れるとマスターに了承を取ってある。

「さすがに寒いな」

 太陽が沈み、日の光がなくなってくると冬の寒さが身にしみる。少しでも体が温まるように両手をこすりつけ、その手に自分の息を吹きかける。
 劇的な効果はないが、やらないよりはマシだ。チラッと腕時計を確認すると、約束の時刻を30分も過ぎていた。——しかし 、自分で呼び出しておいて遅刻かよ。それともただのイタズラだったのか? だとしたら今の俺はひどく滑稽な姿だろう。思わず自嘲めいた笑いが出てきてしまう。

「おやおや〜? これはこれは紳士さん。まさか本当に来てくれるとは思ってなかったよ」

「やっぱり見にきて正解だったな」

 突然、鳥居の方から声が聞こえてきた。
 ふり返ってみると暗くてよく見えないが、背格好と声からして二人組の男性みたいだ。全身黒っぽい服装でまとめており、バンダナのような物で顔の半分を覆っている。どう見ても参拝客には見えない。
 それに、さっきのセリフ……どうも、俺がここに来る事を知っていたかのような口ぶりだった。総合的に見て、手紙の差出人はこいつらで間違いなさそうだな。

「この手紙を俺に出したのはあんた達か?」

尋ねるまでもないが、手紙を胸の前に出しながら一応確認を取ってみる。

「バカかお前? まさか本当に誰かから告白されると思って来たのかよ?」

「んな訳ねぇだろ。身の程をわきまえろっての」

 男達はなにがおかしいのか、ゲラゲラと笑いながらそう言ってきた。
 ——はぁ、まさに骨折り損のくたびれもうけとはこの事だ。そうとわかればこんな所に用はないな。男達の脇を通り抜けるように歩いていくと、片割れの大きめの男が俺の肩を掴んだ。

「おい待てよ。この間のお礼が済んでないんだ。そう慌てんなよ」

「そうそう。この間はよくも恥をかかせてくれたな」

 大きめな男がそう言うと、小柄だがガッチリとした体格の男がそれに続けるように話す。

「恥って? あんた達とは初対面だろ?」

 俺がそう言うと、俺の肩を掴んでいた大きめの男の手に力が入る。見かけ通り力は強いらしい。ギリギリと俺の肩を圧迫させていく。

「とぼけんなよ? 紳士さん。覚えておけって言っておいただろ?」

 俺の問いかけがどうも地雷を踏んだようだ。この男達はもしかして先輩に絡んだ二人組?

「あの時、先輩に絡んでたやつらか?」

「思い出してもらえて光栄だね。俺達あの子の事が忘れられなくてさ、こうして彼氏さんにご相談をっと思った訳」

 俺の言葉を肯定するように、小柄でガッチリとした男がご丁寧に状況を説明してくれた。
 つまりラブレターは俺を誘いだすための罠で、どうやったのかは知らないが俺の下駄箱にしのばせた。校内に仲間がいるという事だろうか? いや、それにしても迂闊だった。あの時もう少しおだやかな解決をしておけば……とにかく、今はこの状況をなんとかしなければ!!

「理解してもらえたようだな。紳士さん、あの子と別れろ」

 大きめの男が俺の肩を圧迫させたまま、そう言う。……そうか。こいつらは俺と先輩が付き合ってない事は知らないのか。確かに、あの時は先輩を助けるために、俺の彼女に手を出すな的な事を言ったんだったな。
 ここで俺がYESと答えればまた先輩に危害が及ぶ。しかし、NOと答えればこのままここで頷くまでリンチという事か。——だったら、少々危険だけど。深い深い、大きな深呼吸をする。

「断る!! 彼女とは絶対に別れない!! なぜなら俺は彼女の事を愛してるからな!!」
 
 羞恥で顔を覆いたくなるような衝動を必死で抑え込み、そのまま俺の大声で唖然としている男の手を引き剥がして神社の裏手に全力ダッシュ!!
 とにかく人が居る所に行けばこいつらも不用意に手は出せない。問題なのは人が居ない場所という事、2対1だという事。それにこれだけ公言しておけば、おそらくはしばらく俺を狙ってくるはずだ。その後の事は————これを乗り切ってから考える。

「バカがっ!! そっちは行き止まりだ!!」

「まわりこめ!! 挟み撃ちにするぞ」

 そんな事は最初からわかってるんだよ。だから危険を覚悟でこの道を選んだんだ。神社の裏手は崖だ。
 木々が生い茂ってるとはいえ急な斜面には変わりない。上がってくる時に見た石段で容易に想像できる。だけど、だからこそ。

「追えるもんなら、追ってきてみろってんだ!!」

 鉄柵をその勢いのまま飛び越してダイブ。もの凄い勢いで一瞬だけ宙に浮いたかと思えば急降下して、木の枝に体中をえぐられながら転げ落ちていく。やっと止まったかと思えば、途端に激痛が襲ってきた。

「……っつつ、ちょっと無茶し過ぎたか」

 右足と右手が激痛で動かせない。どうやらとっさに利き手で体をかばったせいか右手を痛めたみたいだ。
さらに着地の体勢が悪かったため右足も痛めた。
 だけど、さすがに追いかけてはこれないみたいだな。……あぁ、ちょっと疲れたみたいだ。どうせ痛みで動かせないんだ。ちょっとだけ……ちょっとだけ眠ろう。