コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 秘密 ( No.189 )
日時: 2013/12/31 10:51
名前: 雪 (ID: BnjQrs2U)

息が…出来ない…

気付くといつの間にか足掻く手の動きものんびりとしてきている。

少しずつ浮かんでくる。

段々はっきりする頭。

ああ…大人しくしていなければいけないのだっけ。

その時海の底で光るものを見た。

あっ、と声に出したつもりだが声の代わりに泡が吐き出される。

浮かびかけた体を海の底に向ける。

泳ぎは実はあまり得意ではない。

だがあのイヤリングだけは手放せない。

手を伸ばす。

だが憎らしいことに手が届かない。

あと…少し…

後5㎝…4㎝…

息が…!

後…少し…!!

ガバッと水をかく音が辺り一面に響く。

「ゲホッゲホッ…!!」

酸素を求めていた体が酸素を得て息を精一杯する。

気付かぬ間に結構潜っていたようだ。

息が荒い。

「2日で2度もおぼれるなんて君、天才。」

その声は誰よりも1番に聞きたくて…

今までもこれからも求め続ける声。

「別におぼれてたわけじゃないよ、圭。」

見上げると私を軽々と持ち上げる圭の姿。

凄く頼もしくてカッコいい。

「なにしてたの?」

「探し物。大事なもの落としちゃって。」

ニコリと笑う。

こんなことになるのならイヤリングを落としたのも正解かもしれない。

高校に入ってから馬鹿なことを考えるようになったな。

「見つかった?」

「勿論。」

手のひらを開くとそこには圭に救いあげられる前に掴んだ大事な圭のイヤリング。

きらきら光っている。

「綺麗…」

可愛らしい笑顔を向けられ圭が赤面をする。

だがアリスはイヤリングに夢中で気付かない。

「何?見せて。」

「内緒。」

再び圭が赤面した。

するりと圭の腕から逃れると圭と一緒に沖まで歩く。

パーカーを拾い上げるとすぐに羽織った。

そういえば水着のままだった。

思わず赤面する。

「でも驚いたよ。浮かんだと思ったらまた自分から飛び込んだから。
よっぽど大事なものだったんだね。落し物。」

「うん、とっても。…でも助けてくれて有難う。嬉しかったよ。」

真っすぐなアリスの視線。

いつもと変わらない。

「でもアリス…もうちょっと太った方が良いんじゃない?身長もちょっと低い様な気もしなくないし…」

それは当然といえば当然なような気がする。

親戚たちからの仕打ちの数々。

それはアリスを痛めつけると同時に鍛え上げていた。

体重が増える訳もなく、身長も飛びきり高くのびる訳でもない。

でもそれでも平均並みの身長ではある。

「圭が高いんだよ。」

といっても圭とは身長の差は5㎝あるかないか程度だが。

「そう?」

背を比べる。

頭に少しふれただけの圭の掌。

頬が熱を持つ。

「赤いよ?体冷やしたから風邪引いたんじゃない?」

「ち、違う!それに冷やしてすぐ風邪は引かないでしょう。」

「ほんとに?」

「大丈夫だって!!」

ブルーシートに戻るとマリー達はすでに戻っていた。

「あら、海に潜ったんですか?」

「まぁ…成り行きで…」

思わず苦笑いしてしまう。

「アリス、これを向こうで洗ってきてくださいな。」

アリスが遠ざかるのを確認するとマリーは圭に聞き返していた。

「カナヅチではありませんでしたか?ケイ。」

圭の視線はもう遠いアリスの背中に釘付けだ。

確かにケイはカナヅチだった。

むかしから水泳の時間を最も嫌い、見学を貫き通してきた。

「今日、克服した。」

圭は小さく呟いた。

アリスがおぼれているのに助けられずにはいられなかった。

泳げないとかそういうの関係なかった。

なにより…泳いだ先にあの笑顔があったから。

だから悔いはない。

「そう…ですか…」

全てを見透かしたようなマリーの冷たい声が小さく響いた。