コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ
- Re: 秘密 ( No.202 )
- 日時: 2014/01/13 14:59
- 名前: 雪 (ID: OK7TThtZ)
ゴンドラを下りると涼しい風が頬を撫でる。
マリーに叩かれた頬がひりひりと痛む。
「私の意見は曲げないよ。」
小さくポツリと呟く。
近くで聞いているのは圭だけだ。
圭にだけなら話せる。
「だって、仕方ないことじゃない。それで皆を心配させたのは申し訳ないけど…でも仕方ないとしか思えない。」
それでも…
「でも…私は私のためだけに生きている訳じゃないって分かって…嬉しかったのも事実だよ。」
相変わらず仕方ないとしか思わない。
それが分かって良かった。
少しは根を詰めるのは辞めよう。
「心配させない程度に…またお金は返すよ。」
早くに弱みを消しておきたかった。
残しておいて後々マリー達に手が回るのを防ぎたかった。
ああいう連中は何をするのか分からないからな。
「忠告有難う。」
「うん…それでいいと思う…」
あの時。
正直自分が情けなかった。
マリーの声に賛同する様に声を上げた。
マリーが上げなかったらきっと声もあげられず自分に嫌気がさすばかり。
「圭といる時が一番ほっとするみたい。」
その言葉に不用意に頬に朱が染まる。
だが全然嬉しくなんかなかった。
僕にはなにも出来ていない。
アリスの心を救う事も…傷をいやすことも…出来ない。
その言葉はむしろ圭の心を傷つけた。
何もできないのに自分に掛けられたその感謝の言葉が…とても重い…
アリスには分かっていた。
自分にはなにも出来ないと思っている圭の気持ちが。
そう言った優しさが好きだ。
目をつぶって…何も知らないふりをすればそれで終わりなのに。
感謝の言葉で救われないのは分かっている。
自分の問題を圭に話して重荷をかけてはいけないのだ。
「圭はちゃんと私のためになってるよ。」
ポツリポツリとゆっくりと圭の体にその言葉が沁み込むように。
「本当に申し訳ないと思っているんだよ。私のことに勝手に巻き込んで。
でも…今まで私には話を聞いてくれる人すらいなかったんだよ?
だから…とっても助かったんだ。」
でも…それが重荷になると分かって話したことには今でも罪悪感を抱く。
重荷を背負う必要のない人間に背負わせてしまった。
酷い奴だ。
分かっていてもついつい頼ってしまう。
話を出来る相手は初めてだから。
それがいかに無責任なことだったか。
「無責任なことって思ったでしょう。」
表情が固まる。
「でもそれってさ…僕がアリスを救えないって思ってるからそういう結論になる訳でしょう。」
じゃあさ…と圭は続ける。
いつもは圭の心を見透かすように次の言葉を当てられるアリスも言葉が詰まった。
先の言葉が予想できない。
「待ってて。何時か僕がアリスを闇から救うから。
待ってて。いつかアリスを助けるから。だからそれまで…待ってて。」
大きく目が見開く。
!?
意味が分からない。
救う?
何を言っている?
どういう意味…
言葉の意味が理解できない。
皆自分のために生きる。
自分のことが可愛くて…自分のために生きる。
他人とは助けるものではない。
利用するためだと思っていた。
私も圭達は私の寂しさやそう言ったものを埋めるために利用していると思っている。
「人は…人を利用するために…私だって…ずっと…」
救うと言った圭の言葉が理解できない。
「アリスの場合は利用じゃなくて必要なのかもしれないね。僕はアリスを必要としているけどな。」
必要…
人は皆寂しさや愛しさを紛らわすために他人を利用する。
でも…必要としているとは思ったことがなかった。
「…うん。…確かにそうかもね。」
そう言って彼女は優しく微笑んだ。
随分と表情が和らいでいる。
再会してから彼女の表情は和らぎ、彩られ続けた。
遠くからマリーが私の名を呼ぶ声が聞こえた。
「行こ。」