コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 秘密 ( No.218 )
日時: 2016/05/11 02:09
名前: 雪 (ID: Id9gihKa)

「「「アリス!!?」」」

3人の声が電話を切る直前に聞こえた様な気がした。

馬鹿だなぁ。

そんなに慌てちゃって。

電源を切ってぼろきれ同然の服の中に隠した。

「…だっ、誰と話していた!?」

「1人言だ。小さいことを気にする奴は心まで小さくなるらしいぞ。」

本を受け取ろうと柵越しに手を伸ばす。

牢獄の中にはすでに何冊も本が積み重なっていた。

まるで図書館の様だ。

毎日のように本を持って来させ、それをよんで暇をつぶした。

しかし食事の後では文字もろくに読めない。

それでも彼女は本をめくり続けた。

まるで何かを忘れるように。

内容が頭に入っているかなんてわからない。

それでも彼女は何かに没頭する様にページを操った。

周りには彼女が涙を流さぬように必死に耐えているように。

ただただ何かを忘れようと。

必死にめくっているようにしか見えなかった。

食事を再び取らなくなったのもその頃だ。

彼女は食事も睡眠も削り、ただただ本を操った。

「どうにでもしろ。」

そして役に立たない私はここに連れて来られた時と同じく唐突だった。

どうせまたお父様の気まぐれなのは分かっていた。

「また…私は帰るのか…人の世に。」

しゃがみ込み本に没頭している私は柵の外側に立つお父様がとても大きく見えた。

とても恐ろしくておぞましい男だった。

どうやらお父様の部下のご慈悲もあってかまたここから出ることになったらしい。

その頃には牢獄には本で埋め付かさんばかりだった。

彼女の周りには本しかなかった。

高く積まれた本は天井に届かんばかりだった。

パチンッと指を鳴らす。

すると本をとり上げられた。

手を伸ばすと素早く注射器を腕に挿した。

するとすぐにうっ、と呻いて気を失った。

そして気付いたら私は病院にいた。

精神病院だ。

お父様の声が辛うじて聞こえた。

「では先生、宜しく頼みましたよ。私にはこの化け物が生きていられても困るがかと言っても死なれても困るのでな。」

「…化け物?そんなの関係ないよ。
僕の仕事は病人の心のケアをすることだよ。それが誰であろうと僕の患者であることに変わりはない。」

「世にはモノ好きもいるものだな。」

お父様のふっとせせら笑う様な声が聞こえた。

「退院させても構わんが、後悔はするなよ。
化け物は我々人間にとってはとても危険なのだから。」

その言葉の直後、自動ドアの開く音がした。

再び自動ドアがしまる音がしたら先生らしき人の声が続いた。

「それにしても…16年くらい前に連れてきたあの子と瓜2つだね。」

そこだけまでを辛うじて聞き取ったら意識が途絶えた。

手に温もりを感じる。

もう二度と感じることのないと思っていた温もり。

それがこの手にある。

重い瞼を上げて目をうっすらあけるともう二度と会えないと思っていた顔触れが目に入った。

すぐに視界がぼやけた。

彼らは私の手を掴むと声をそろえて告げた。

「「「お帰りなさい!!」」」