コメディ・ライト小説 ※倉庫ログ

Re: 秘密 ( No.228 )
日時: 2014/01/28 20:11
名前: 雪 (ID: nrzyoCaD)

一応松葉杖は持っているものの使わずに軽やかな足取りでアリスは病院を後にした。

マリー達がサプライズでクラッカーを鳴らし、車でお出迎え。

入院する前と退院した後でここまで世界は色が違った。

クラッカーを鳴らした影響か多少周囲は火薬臭い。

「「「退院おめでとう!!」」」

そう言った3人の声が今でも頭に響いている。

そのまま一度仁科に会いに行くと説教を喰らった。

その後やれやれと言った顔で

「3日後の19時から。」

と仕事の日程を告げて解散となった。

それからわざわざ見送ってくれると言い出した3人を連れてアパートへ向かった。

久しぶりに帰ってきた部屋には埃が積もり、汚い部屋がさらに薄汚くなっていた。

「あちゃ…窓だけでも開けておくべきだった…」

しかし3人が驚いたのは部屋の汚さだけではない。

とても狭かったのだ。

台所とトイレは付いているものの部屋そのものは三畳あるかないかレベルだった。

とても狭く布団はたたんではあるものの押し入れも無いためそのまま放置され、埃を被っている。

辺り一面には楽譜やCDが積み重なられていて部屋を陣取っていた。

服も畳んでじかに床に置かれ積み重なっていた。

制服のシャツすらも床に置かれていた。

よく見るとハンガーが1つもない。

布団も薄い毛布だし、敷布団と言っても体育館のマットのように固かった。

「ありがと、また明日学校で!」

松葉杖を放り出して片付けに勤しむ。

こんな部屋。

あんな生活。

気付かれたくなかった。

圭にだけは。

私には人として足りないものが多過ぎる。

それでも皆に会ってから半年。

たったそれだけで自分にはこんなにもいろんな感情が芽生えた。

マリーと再会し、嬉しくて涙を流した。

マリーと一緒に2人を探した。

圭と再会して駆け出したね。

2人で一緒にピアノを引いたね。

リンに認めてもらうために歌を歌った。

リンと喧嘩もした。

マリーと恋バナをして。

リンと語り合って。

圭に恋をして。

どれもこれもが私のしたことのないことばかりだった。

「アリス…私の家に来ます?」

「マリー…」

何時かは言うと思っていた。

お父様のところにいて先生から話を聞いてから3人の行動は推測できる。

薬を盛られているかもしれないその中で誰かの家にかくまった方が良いと思われるだろう。

そして止まるなら普通に考えてご令嬢であり、女の子であるマリーの家。

「…大丈夫。片付ければ使える。」

「そうです、か…」

あからさまに落胆している。

はぁ、と小さく溜め息を吐きかけてやめた。

「…でもお泊まり会くらいならいいよ。」

ニッコリ笑う。

「ちょっと待ってて。今準備するから。」

荷物を準備しようと手を伸ばしたその矢先だった。

パリンッ

窓ガラスが割れた。

破片は宙を舞いアリスの頬を掠り、傷から血が流れた。

CDの上に何かが落ちたようでパリンッと小さな音がした。

正体は石だった。

「なっ…!?」

ちっ、と小さく舌打ちする。

私を遠巻きにし、嫌がらせをした人は数知れずだ。

大方父の部下だろう。

見張りを言いつけられているのだろう。

そして何のつもりか石を投げてきた。

全くくだらない。

向かいの建物に人影が見える。

父の使いの分際で拳銃じゃないだけまだましなのかな?

ちっ、と再び舌打ちをする。

「どこかの子の悪戯みたい。全く困ったものだな。」

そう言ってそろそろと立ち上がった。

3人に無理やり帽子をかぶせ、近くにあったもので適当に顔を隠すと胸倉をつかみ引き寄せた。

「…いいか?ここを出たら誰にもつけられないように家に戻れ。くれぐれも顔を見せるな。
いざという時は基地が集合場所だ。」

そう告げると手を離した。

何か質問しようとそれをねじ伏せ大声で叫んだ。

「逃げろ!!」

3人は一斉に飛び出した。

私も腰を上げるとお金を大家のポストに余分に入れておき、アパートを後にした。